写真1●Firefoxの普及を目的とした有志のプロジェクト「SpreadFirefox」。1億ダウンロードを祝う画像をユーザーが投稿しているページ
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写真2●DIコンテナSeasar。有志によりロゴやイラストも作成され,英語での情報発信も行われている
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 オープンソースがまだ今のようにビジネスになっていなかったころ。オープンソースの利用者がそのままマーケティングの担い手であった。つまり,「自分が使ってみて良かったから,あなたも使ってみたらどうか」といった口コミによるマーケティングが大部分を占めていた。

オープンソースのユーザーは一般や企業に拡大

 そうやって徐々にオープンソースの利用者が増えていた結果,オープンソースで本格的にビジネスを行う企業が現れるようになった。そして現在では,米JBossや米SpikeSourceといった様々なオープンソース企業が,専任のマーケティング担当者を置き,本格的なマーケティング活動を行っている。

 オープンソースのソフトウエアの機能は商用ソフトウエアに迫り,ユーザーが個人ではなく企業,コンピュータの専門家から一般的なユーザーとなってきた。このような状況の変化に応じて,Webサイトや各種メディア,イベントなどを通じて「その存在を広く知らしめるための努力,技術の価値をエンドユーザーわかりやすく理解してもらうための努力」が必要になってきたのではないだろうか。

 「SpreadFirefox.com(Firefoxを広めよう.com)」というボランティアによるマーケティング・プロジェクトは,まさにそういった草の根マーケティングの成功例だ。Webサイトにはもっと多くの人にFiefoxを使ってもらいたいと思った人たち集まり,Firefoxを広めるためのアイデアを出し合い実践したり,情報を発信したりしている。Firefoxが公開された際にはそれを祝う100以上のオフラインでのパーティが世界各地で開催された。さらには25万ドルもの寄付を集め,米New York Timesなどに全面広告を打った。しかし広告そのものよりも,これだけの寄付を集めたという事実のほうが効果が大きかったかもしれない。1年後にFirefoxは1億を超えるダウンロードを数えるまでになった。

マーケティングとは「市場を創造する力」

 そもそもマーケティングとは何だろうか。イメージを飾り立てることだと思われているかもしれない。しかし美辞麗句を並べ立てて,虚像を作り上げたとしても長続きはしない。製品を必要とする人のもとへ,正しい情報をいきわたらせること。必要とする人が望む形に製品を形作っていくことがマーケティングなのではないか。

 日本マーケティング協会によるマーケティングの定義には「マーケティングとは,企業および他の組織がグローバルな視野に立ち,顧客との相互理解を得ながら,公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である。」とある。市場を創造すること,すなわち「オープンソースをビジネスにする」ことは,いまだ確固たる定石は存在せず,まさに「創造する力」が問われている段階である。

 そしてこの定義によれば,その主体は「企業および他の組織」である。企業とオープンソースのコミュニティのかかわりを語る上で,「企業 vs コミュニティ」という対立構造を持ち出されることがあるが,企業もまたコミュニティを構成している一員である。単純に自社の利益のみにとらわれるのではなく,マーケティングにおいては市場全体を活性化するようなコストを企業も負担してこそ,コミュニティ全体からの理解が得られるだろう。

「分かる人だけ使ってくれればいい」では,いいものも広まらない

 日本にも優れた技術,優れたオープンソース・ソフトウエアがあるが,特にこれから世界へ広めようという時「分かる人だけ使ってくれればいい」というのでは,いいものでも広まらない。ある程度マーケティングを意識しておくべきだろう。

 もちろん,商用製品のマーケティングのやり方をそのまま真似るべきだとは思わない。オープンソースの強さはやはりコミュニティにある。まず,使ってみていいと思う人が集まるコミュニティを作ろう。そして,積極的に人にも薦める。技術者だけでなく,エンドユーザーに対しても,エンドユーザーの目線で,エンドユーザーの分かる言葉を使って良さを伝えてみる。

 日本のボランティア・ベースのオープンソース・ソフトウエアでも,マーケティングに真剣に取り組んでいるコミュニティもある。Direct InjectionコンテナのSeasar2は,メイン開発者の比嘉康雄氏の出身地,沖縄にちなんでソフトウエアに「Seasar」,「Maya」,「Kijimuna」,「Kuina」などの名前をつけ,ユニークなロゴを作り親しみやすさを高めている。

 多くのまだ生まれたてで無名なオープンソース・ソフトウエアの開発者と話をしていると,広めるために何をしていいか分からない。多くの人に見てもらいたいが,なかなかそういう機会がないという。そういった方々にイベントだろう。多くのイベントがボランティアにより運営されているが,多くの来場者とフェィス・トゥ・フェイスで自分の惚れ込んだソフトウエアの魅力を伝える場になる。

 またマーケティングのためには,Webサイトやロゴのデザイン,分かりやすいドキュメントの作成やミーティングの運営など,開発とは違った活動が必要だ。そういった指向やスキルを持つ人材はオープンソース・コミュニティに今,強く求められている。様々な人々が出会う場としても,イベントを活用してほしい。

 筆者が運営に参加しているオープンソースカンファレンスは,今年は3月に東京(関連記事),7月に北海道,9月に東京(関連記事),そして11月に沖縄(関連記事)と開催して2000人以上の参加をいただいた。来年も引き続き開催をしていく予定だ。オープンソースのマーケティング活動の一環として,オープンソースを広めるお手伝いをしていきたい。

■著者紹介
宮原 徹(みやはら・とおる)氏
株式会社びぎねっと代表取締役社長/CEO。1972年,神奈 川県生まれ。中央大学法学部法律学科卒。 日本オラクル株式会社で「Oracle 8 for Linux」などのマーケ ティングを手がけた後,オープンソースのマーケティングを志し, 2001年,株式会社びぎねっとを設立。「オープンソースカンファレン ス」の運営など,様々なオープンソース・コミュニティの盛り上げ役と して全国を飛び回っている。最近では,IPAの「未踏ソフトウェ ア開発事業」へのプロジェクト管理組織としての参加や,早稲田大学非 常勤講師として若い才能を育てる活動も精力的にこなしている。(宮原氏インタビュー「会社に閉じこもらず交流しよう」)。