図1●日立ソフトウェアエンジニアリングの業績
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写真●小川健夫社長
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 大手ITサービス会社の日立ソフトウェアエンジニアリングは高収益企業への体質作りに取り組み始めた。売上高は増え続けたものの、経常利益率が7%から6%、5%、4%と年々下がり、2004年度は赤字に転落してしまった(図1)。規模拡大のために、不得意分野の業種ソフト開発まで手掛けたことが赤字の大きな要因の1つである。小川健夫社長は得意分野に絞り込むとともに、パッケージ開発を強力に推し進めることで回復を図るとする。小川社長(写真)に今後の戦略を聞いた。(聞き手:田中克己=編集委員室主任編集委員)

---日立ソフトの04年度は、売上高が1806億円(前年度比19%減)、経常損失が92億円だった。ソフト開発で大きな不採算案件が発生したことに加えて、情報処理機器(ハードなど)が大きく落ち込んだことが響いた。

小川 目指す姿はモノ作りをきちんとやること。その手段としてパッケージを開発し提供したり、それを活用したソリューションを提供したりしてきた。もう1つはソフト開発を長年手掛けてきたことで、特に基幹業務の構築ノウハウや技術力、SE力を蓄積してきた。サービス提供型のフィービジネスにも取り組み、自社システムも提供してきた。

 この方針でずっとやってきたのだが、業務ソフト開発にあまりにも重点が移ってしまった。業務ソフトの特徴は仕様や納期、稼働を決めるのは顧客の範疇にあるということ。顧客が強烈に強ければ、それに従ってやればよかった。しかも日立製作所の下にいるケースが多かったが、メインフレームからクライアント・サーバー、Webシステムへと移行するとともに、何でもやることが難しくなってきたし、危険も大きくなってきた。だから過去から手掛けてきた技術力のある分野に集中することにした。そうしたほうが顧客に喜ばれるいいシステムを作れるし、開発もうまくいく。

---銀行の勘定系システム、テレコムの料金システムなどで数多くの実績がある。こうした分野に特化していく考えだ。

小川 もう1つ重要なことは、自社パッケージを使ってシステム開発をやることだ。しかも分野を決めて集中的にやる。パッケージが活用できる範囲なら予算以上の費用が発生することは少なくなる。例えば、地方の営業部隊には「セキュリティ・ソフトの秘文を売れ」と指示している。ここでの経験は豊富にあるのでトラブルも少ないからだ。同時にパッケージ事業を拡大させるために間接販売の体制を築き、アメリカやイギリスなど海外展開も始めた。

業種ソフト開発で赤字を出す

---05年度の売り上げ計画は1545億円(前年度比15%のマイナス)だが、パッケージを含めたシステム開発が4%増の1145億円(うちパッケージは25%増の110億円)と伸ばす。その一方で情報処理機器は400億円と44%の落ち込みを見込んでいる。

小川 04年度は業務ソフト開発で大きな赤字を出した。慣れない業務ソフトで売り上げを伸ばそうと努力したことがマイナスになってしまったが、今期はこれをプラスに持っていく。ただし、売上を伸ばすために利益率の低いハード販売を 無理に伸ばすことはしない。パッケージが適用できない分野まで手掛けるといろいろな問題が発生するからだ。協力会社を含めて技術者を増やして、売り上げを急速に伸ばすことも容易ではない。

 それよりもパッケージを活用した業務ソフト開発に集中し利益を上げていく。これに加えて自社パッケージや各種サービスなどを伸ばす。パッケージは、セキュリティ・ソフトの秘文など情報漏洩防止対策関連(15億円増の45億円)や電子ドキュメントの活文(3億円増の20億円)、運用管理(2億円増の29億円)などで今期は110億円を計画している。

 自社システム製品で最も大きなのが、ボード上で書き込みやパソコン操作ができるインタラクティブな電子ボードStarBoard(今期22億円)になる。英国ケンブリッジ大学出版局と提携し電子教材も作りコンテンツビジネスとしても立ち上がってきた。また、イギリス、フランス。ドイツ、スペインなど海外展開も始めている。自社システムをベースにしたフィ型ビジネスでは、衛星画像を使って不動産事業向けASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)を計画している。例えば顧客に駅からの道順やマンション周辺に何があるのかを見せるものだ。タクシー会社向けに利用者がICカードで料金を支払うCABカードもフィ型ビジネスになる。

---コスト削減の一環からオフシェア開発を推進するITサービス会社が増えている。

小川 海外企業を含めて外注を増やすことをずっとやっていけるわけがない。コストは人になっているので、中国に出す。さらにベトナムに出すといったことは、ある時期までになる。言葉の意味、言葉の行間を理解して、そしてレビューを含めたモノ作りの体制を作ることが重要だ。それを財産として残さないと生き残れないだろう。確かに当社も中国やベトナムに開発センターを設けているが、いずれ日本に何を残すのか明確にしていくことになる。また、外注先は誰でもいいのではなく、コアパートナ(国内6社、海外2社)と技術を共有し、戦略も活用していくことになる。

07年度に営業利益率8%に

---07年度に営業利益率約8%を目指す。だが、ユーザー企業はさらなる値下げを要求している。
小川 1人月いくらの時代は若手を使って利益が出せた。しかし、携帯やカーナビ、情報家電へとソフト活用の広がったことで、それらに事故が起きたら大変なことになる。手は抜けないし、ますますモノ作りをきちんとしないだめだということだ。そうは言っても自前のパッケージがないと価格競争になってしまう。人月がまだまだ続くだろうが、自社のパッケージの価値を認めてもらうよう努力することだ。そして、自分でやれるものを顧客に提案していく。

 ただし、パッケージが使えないところに手を出すと大変なことになる。05年度は、04年度に赤字になったソフト開発を黒字化し、さらに自社パッケージや自社システム、サービスの利益を増やす。ソフト開発は分野の選択と集中を加速させるとともに、不採算案件の撲滅に向けての施策の実行、原価低減と生産性向上を推進する。

---どんな分野に資源を投入していくのか。

小川 金融系は勘定系、決済系、会計系、ノンバンクに集中する(05年度は56億円増の259億円を計画)。公共は横ばいだろう(19億円減の182億円)。製造などの産業向けは生産管理、販売物流、カードビジネスでうまくいくと見ている(28億円増の233億円)。テレコム向けは基幹インフラ、運用管理、料金計算、顧客管理(23億円増の100億円)で、いずれもパッケージで攻めていく。このほかに組み込みソフトにも力を入れる(2億円増の70億円)。ここでもパッケージを開発する。

 しかし、ソフト開発をむちゃくちゃに増やせるわけはないと思っている。単価は下がるが効率を上げることで、今期は経常利益47億円を計画している。前年度に比べて、不採算案件の減少で157億円、原価低減・生産性向上で55億円、システム開発の売り上げ増で10億円の利益を見込んでいる。その一方でシステム開発売価のダウンで41億円、情報処理機器の売り上げ減で17億円のマイナスなどを見込んでいる。と同時に、1人当たりの売り上げを増やすことを考えている。具体的な数字は言えないが、今期の売り上げは1545億円で社員数は5500人(技術者は4600人)なので、そこから想像して欲しい。(敬称略)

■小川健夫(おがわ たけお)氏の略歴
1939年生まれ。65年九州大学工学研究科修士課程。日立製作所に入社。旭工場副工場長、ソフトウェア開発本部副本部長などを経て、94年日立ソフト入社。取締役、常務、専務を経て03年6月代表執行役社長兼取締役に就任