図8●ドキュメントの関連図の例<BR>何を中間成果物とし,何を最終成果物とするかを,ドキュメントの関連図としてシステム構築前にまとめておくのがよい。図にして関連性を明確にしておけば,何のために作成しているのか,無駄なドキュメントを作っていないか,を簡単に把握できる
図8●ドキュメントの関連図の例<BR>何を中間成果物とし,何を最終成果物とするかを,ドキュメントの関連図としてシステム構築前にまとめておくのがよい。図にして関連性を明確にしておけば,何のために作成しているのか,無駄なドキュメントを作っていないか,を簡単に把握できる
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図9●面倒でもレビューすることが重要&lt;BR&gt;ドキュメントを作成しても読み手に意味が伝わらなければ意味がない。ドキュメントの質を高めるには,ベテランSEがレビューするしかない
図9●面倒でもレビューすることが重要<BR>ドキュメントを作成しても読み手に意味が伝わらなければ意味がない。ドキュメントの質を高めるには,ベテランSEがレビューするしかない
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図10●システムをISO9001による品質管理の対象にする&lt;BR&gt;カブドットコム証券では,システムをISO9001の対象にし,システムの新規開発や変更,不具合の対処などを厳格に管理するようにしている。ISO9001という目標を明確にすることで,ドキュメント作成のモチベーションを高めている
図10●システムをISO9001による品質管理の対象にする<BR>カブドットコム証券では,システムをISO9001の対象にし,システムの新規開発や変更,不具合の対処などを厳格に管理するようにしている。ISO9001という目標を明確にすることで,ドキュメント作成のモチベーションを高めている
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図11●ドキュメントも人事評価の対象にする&lt;BR&gt;GMOメディアアンドソリューションズでは,ドキュメントも人事評価の対象とし,3カ月に1回上司が確認する。(1)ドキュメントを見れば担当者の仕事を評価できる,(2)表現力や文章力の乏しいエンジニアの底上げを図る,(3)ドキュメントがあれば担当者をローテーションさせることができる---といった狙いからこのような制度にした
図11●ドキュメントも人事評価の対象にする<BR>GMOメディアアンドソリューションズでは,ドキュメントも人事評価の対象とし,3カ月に1回上司が確認する。(1)ドキュメントを見れば担当者の仕事を評価できる,(2)表現力や文章力の乏しいエンジニアの底上げを図る,(3)ドキュメントがあれば担当者をローテーションさせることができる---といった狙いからこのような制度にした
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Part2●体制を整える
標準化や共有で品質を高める

 コーディング・ルールなどはシステム構築前に規定するが,ドキュメントに関しても標準化しておくのが理想である。何を残し,何を省略するかはプロジェクト・マネージャのスキルに依存する部分が大きいからだ。

 そのため,電通国際情報サービスでは今後,成果物の作成を省略すると,工数を削減できる代わりにどのようなリスクがあるかを開発プロセスの中で明らかにしていく予定である。「ドキュメントはプロジェクト・マネージャが決めていいが,どれを省略するとどれだけリスクがあるのかを理論的に組み立てられるようにする」(電通国際情報サービス 事業推進本部 開発技術部 マネージャー 高安厚思氏)。

 住友商事が構築中のSAP R/3を利用した基幹系システムでは,ITガバナンス・チームを構成し,ドキュメントとして何を作成し,何を残すかを標準化した。コアが3人,ワークが1人の計4人のチームで,「経験が豊富で構築したシステムの品質が高いと言われている人材を集めた」(システム構築と運用を担当する住商情報システム エス・シー・ソリューション事業部 トレードビジネスソリューション第一部 部長 大吉哲夫氏)。

 これは大規模システムの例だが,規模が小さい場合でも最低限ドキュメントの関連を図にまとめておくと便利である(図8[拡大表示])。一般に,ベンダーからどのような成果物を受け取り,ユーザー企業側でどのように検収するかをシステム構築前に決める。その際,何が中間成果物で何が最終成果物かを図にしてまとめておけば,何のために作成しているドキュメントなのか,無駄なドキュメントはないかを簡単に把握できる。各工程のアウトプットが次工程のインプットになっているのが基本だ。

 このほか,冒頭で紹介したライオンの事例からも分かるように,エンドユーザーが主体となって構築する場合は注意したい。ドキュメントを作ることを前提に許可するか,作り捨てと割り切るしかない。住友商事は前述の標準とは別に,最低限残すべきドキュメントやセキュリティ・ポリシーなどを全社的に規定しており,どのような場合も遵守するように義務付けている。

ベテランがレビューする

 標準化で残すべきドキュメントを決めても,中身の品質まで規定するのは難しい。担当者任せにしていると,「何が書いてあるのかが分からない」という状況になりやすい。ライオンでは,ベンダーが提出した成果物の内容が担当者によってバラバラだったことがあった。「機能設計書なのにプログラム仕様書のように細かく処理手続きが書いてあったりした」(宇都宮氏)。

 こうした品質の問題は,ベテランのSEがレビューするしかない(図9[拡大表示])。手本となるサンプルを用意するのも有効だ。住友商事のITガバナンス・チームでは,サンプルを用意して品質の確保と生産性の向上を高めるようにした。「作成したものはすべてのプロジェクト・チームに確認,レビューした。ただ,差し戻しなどもあって安定するまでには半年くらいかかかった」(住商情報システム 大吉氏)。ITガバナンス・チームは現在も残してあり,常に見直しを図っている。

共有,検索できるようにする

 良いドキュメントは共有するのが一番である。「悪いドキュメントを真似すれば質もそれなりになる」(富士フイルムコンピューターシステム 菊谷氏)。ドキュメントによるスキルやノウハウの継承という意味でも,共有が不可欠である。住友商事,中電技術コンサルタント,東京海上システム開発,富士写真フイルムなど,多くの企業がドキュメントを共有できる仕組みを構築している。その場合も蓄積するだけでなく,全文検索できるようにしておくと便利である。ただし,「特別なツールを使うと専用のビューワがなければ見られないし,検索もできなくなる」(富士フイルムコンピューターシステム 菊谷氏)ので注意したい。

 東京カンテイの場合,シェアウエアの掲示板ソフトを改良して使っている。以前は情報システム部門のホームページを作って共有していたが,「HTMLを書くのが面倒な上に,WordやExcelなど担当者によって作成するドキュメントのフォーマットが異なる」(瀧内氏)。掲示板ソフトに変えたことでHTML作成の手間を省き,入力フォーマットを統一した。カテゴリごとにも検索できるようにしてある。

ISO9001の対象にする

 分かりきったことをドキュメントにするのは面倒だし,自分のためでないとなるとやる気が出ない---。そんな担当者のやる気を引き出す工夫をしている企業も多い。

 全社・全業務でISO9001を取得したカブドットコム証券の場合,情報システム部門で作成するドキュメントの一部を品質管理の対象とすることで,担当者のモチベーションを高めている(図10[拡大表示])。情報システム部門では,ISO9001の対象となっている開発依頼表,システム切り替え表,不適合一覧表を中心に日々の作業をこなしていく。「ISO9001の上に自分たちの業務をのせるようにした」(システム統括部長 兼 業務開発課長 阿部吉伸氏)。

 例えば,システム関連で不具合が生じた場合は,情報システム部門が申告しなくても,他部門から不適合として指摘されて全社員にメールで通知される。不適合が多い場合は内部監査で原因と対策を追求されることになるため,不適合をなくすというのが重要なミッションになる。「何のためにやっているのかが分かっていないと更新も遅れがちになる。これに対し,お客様のため,会社のため,情報システム部門のために絶対に必要というゴール・イメージが明確になれば抵抗なく更新できるようになる」(齋藤氏)。

人事評価の対象にする

 ガリバーインターナショナルやGMOメディアアンドソリューションズでは,ドキュメント作成も人事評価の対象にしている。GMOメディアアンドソリューションズの場合,部長以上の3人が年に4回,各担当者と面接,評価する(図11[拡大表示])。その際はドキュメントを必ず確認している。ドキュメントを見れば「その担当者が何をしてきたのかが分かる」(堀内氏)ためだ。もちろんドキュメントは評価の一部に過ぎないが,ウエイトは小さくないという。評価によって給料が変わるため,担当者は気が抜けない。

 このほか,ドキュメントを書く習慣を身に付けさせることで,エンジニアとしての能力の底上げを図る狙いもある。「理解はしているけれど,文章にすると途端に説明できなくなるエンジニアが多い」(堀内氏)。また,ドキュメントが完備していれば担当者をローテーションできるようになる。「同じことを1年もやっていると飽きてくる。1年くらいで積極的に担当替えをしていきたい」(同氏)と考えている。