サーバーが処理の主体となる「シンクライアント」の概念は,パソコンを使う上で日々発生する目に見えない管理コスト(TCO:Total Cost of Ownership)への対策として急速に注目を集めた。さまざまなシンクライアントが1990年代後半から相次いで登場。キー入力を伝えてサーバーの処理結果を受け取るだけの単機能の「端末」をクライアントとするサーバー集中型のシステムに回帰することで,処理能力や記録容量の向上,ソフトウェアのバージョンアップ作業といった管理コストを下げるのが狙いだった。

 ところがシンクライアントはほとんど売れなかった。管理コスト削減と引き換えに,それまでパソコンに慣れていたユーザーに不便を強いるものだったからだ。起動が遅かったり,反応が鈍かったりといった性能の問題や,今まで使い慣れたソフトを利用できないといったことが起きた。同じ我慢ならWebベースのイントラネットで十分という側面もあった。

図1●シンクライアントの主な実装形態
処理の主体がサーバーとクライアントのどちらにあるかや,やりとりする情報によって大きく3種類に分類できる。

 制約の多いシステムとして勢いを失ったシンクライアントだが,今再び光が当たり始めた。その背景には,2005年5月に施行された個人情報法保護法がある。本人の同意を得ない情報開示について罰金や懲役を課しているため,個人情報を保存したパソコンの盗難や紛失による情報漏洩が企業イメージに深刻なダメージを与えかねない。サーバーにデータを集約するシンクライアントであれば,クライアント・マシンがなくなっても,失うのはハードウェアだけで済む。そこで情報漏洩を防ぐ手段として,企業での導入が本格化し始めた。

 では再びユーザーは我慢を強いられるのか。答えはノーだ。パソコンの使い勝手に少しでも近づく工夫を取り入れたシンクライアントが登場しつつある。

 シンクライアントの実装形態は大きく三つ(図1[拡大表示])。(1)画面表示と計算処理,記録装置の3大リソースがサーバー側にある画面転送型,(2)ハードディスクのみをサーバー側に集約したディスクレス型,(3)ディスプレイおよびキーボード/マウスの信号を100m超伝送できるようにしてのコンピュータを遠隔で使うKVM(Keyboard/Video/Mouse)スイッチ型だ。