[画像のクリックで拡大表示]

表1●Imagine Cup 2005で用意された部門。Officeデザイナ部門を含む下の五つの部門は2005年から新設された部門である
[画像のクリックで拡大表示]

写真1●ソフトウェア デザイン部門,初日の発表の様子。控え室のような小さな部屋でプレゼンする。手前の3人は審査員
[画像のクリックで拡大表示]

写真2●タイ「PenTor」の実機デモ。後ろの舞台から審査員の目の前まで降りてきてPDAの画面を見せてデモする
[画像のクリックで拡大表示]

 学生向け技術コンテストImagine Cup 2005の終了前日のこと——。ソフトウェア デザイン部門とショート フィルム部門の決勝が行われているステージの休憩時間,ロビーは世界中の学生たちでごったがえしていました。自国の国旗と名前とメールアドレスの入ったお互いのシールを交換しあっています。

 前日,総勢200人以上のメンバーで一緒に日本庭園に行ったり,茶道を楽しんだりして交流したからでしょうか。すっかり打ち解けあった様子です。お互いの作った作品について感想を述べ合っているグループ,自分の国の経済やITの事情を話し合っているグループ——コンテストではライバルなんだけど,同じ世界に興味を持ち,これから社会を,また世界をめざす若者たちならではの情熱と親密さがありました。心の底からいいなあと思い,私も何かに挑戦したくなってきました。情熱って伝染するみたい。

今年の世界大会は横浜が舞台

 さて,あらためてご紹介いたします。Imagine Cupは米Microsoftが世界の学生を対象に開催している技術コンテストです。このイベントの目的は,学生のテクノロジに対する学習意欲や技術の向上を支援すること。そして,将来の技術者を育成・支援し,実社会で重要なコミュニケーション力やプレゼンテーション力を試す機会を提供することにあります。

 今年で3回目のImagine Cup。1回目(2003年)は1部門14カ国,2回目(2004年)が4部門35カ国からの参加で,規模は年々拡大しています。開催地は,1回目がバルセロナ(スペイン),2回目がサンパウロ(ブラジル)で,今年の会場はここ日本でした。44カ国220名の学生たちが,世界の頂点を目指して横浜に集結します。

 今回用意された部門は表1[拡大表示]の九つ。日本からは,ソフトウェア デザイン部門に大阪大学大学院チーム,Officeデザイナ部門に海城高等学校の竹井悠人さん,ビジュアルゲーミング部門に灘高等学校の加藤新英さんと,一関工業高等専門学校の熊谷一生さんが,それぞれ予選を勝ち抜いて世界大会に参加しました。本稿では,主にソフトウェア デザイン部門の審査を追いかけながら,Imagine Cup 2005世界大会の模様をレポートしていきます。

 今年のImagine Cup のテーマは「テクノロジの力であらゆる境界をなくしていこう」。ソフトウェア デザイン部門では,それを実現する新しいアプリケーションを開発して発表します。ほかにも,応募条件として .NET Frameworkを使用していること,自分で作成したWebサービスを使用していること,モバイル・デバイス(ノートPCを含む)を使用していること——などがあります。

 こうして作成したアプリケーションは,審査員が,問題提起力(20%),革新性(20%),インパクト(20%),実効性(20%),実装力(15%),プレゼンテーション力(10%)という六つの要素で審査します。さあ,果たしてどんな斬新なソフトウエアが横浜にやってきたのでしょうか。

世界の学生が集うさまは壮観

 ソフトウェア デザイン部門の審査は,4日間かけてじっくり行われます。1日目はいわばリハーサル。世界各国から選出された3人1組の審査員チームの前で,自分たちが開発したソフトウエアの概要を10分で説明します。プレゼンテーションは2回,それぞれ違う審査員チームを相手に行います。しかし,ここでの結果が審査に反映されることはありません。この日の発表の目的は緊張をときほぐすことだそうです。

 当日の朝,ソフトウェア デザイン部門に参加する38の各国代表が予定どおり到着しているかどうかを確認するために,点呼が取られました。ABC順に国の名前が読み上げられていきます。オーストリア,オーストラリア,ベルギー,ブラジル,カナダ,中国,エクアドル,フランス,ドイツ,ギリシャ——これだけの国の人々を一度に見るのは初めてかも。

 この日の発表会場は宴会の控え室みたいな小さな部屋(写真1[拡大表示])。観客も審査員とその国の関係者だけ。でも,初日とあってみんなどことなく緊張してあがっているんですよ。発表はすべて英語で行わなければならないので,そのせいもあるんでしょう。顔が真っ赤に紅潮していたり,声が裏返っていたり。ほかの国からの参加者と会話している余裕もない感じです。

 この日の発表は,発表内容に制限がないからか,印象的な予告編ビデオだけを流して,煙に巻いているチームもありました。

十国十色のソフトウエアが登場

 2日目はいよいよ本審査。ソフトウエアを開発した動機や概要,その利用効果などを発表したのち,実機でデモを行います。これも発表の機会は2回あります。持ち時間は審査員との質疑応答を含めて25分間です。

 審査は四つの会場で同時並行的に行われるので,参加チームすべての発表を見るのは不可能です。せめて半分は見たいと思った私は,ガイドブックでチームとソフトウエアの概要をつかみ,「これは翻訳ソフト?」「これは価格.comみたいなもの?」「これは尋ね人探し?」とあたりをつけて,おもしろそうなチームの発表をのぞいてみました。

 まずはチーム・シンガポール。ユニークなプレゼンをするチームです。去年はショッピングカートを会場に持ち込みました。今年はさらに大がかりになって,たくさんのアパレル商品を吊り下げたショップ用ハンガーラックを搬入しての発表です。作品は,RFIDタグを利用したショッピングのための情報収集ソフトウエア「Kaimono」。モバイル端末でRFIDタグから詳細な商品情報を入手するという発想は,日本でも普及しつつあるQRコードと同じものですね。

 作品がビジネスとしてどれだけ見込みがあるかをしっかり試算してきて,BtoBでも大いに活用の場面があると訴求していたのが印象的でした。ただ,そのBtoB向け機能を具体的に見せなかったので,そこを審査員に突っ込まれていましたが。お隣りのチーム・マレーシアも,RFIDタグを使った情報収集ソフトウエアで出場していて,このあたりはお国柄というか,地域の状況が見えておもしろかったです。

 “アジアばかり取り上げて”と思われるかもしれませんが,チーム・タイは発表のスタイルがこの国ならではのものだったので,ちょっと触れさせてください。出品したのはイメージ翻訳ソフトウエア「PenTor」。外国語で書かれているために読めない標識や看板をPDAや携帯電話で写真撮影し,それを画像認識により翻訳して表示するというものです。ふつう,実機デモは演台の上から会場全体に見えるよう行いますが,彼らは審査員一人にメンバーが一人ずつついて足元にひざまづき,マン・ツー・マン形式でインタラクティブに行ったのです(写真2[拡大表示])。さすが観光に強いホスピタリティの国だと感心。画像認識そのものもなかなか迅速でよかったですよ。韓国やタイへ行くときなどはきっと便利だと思います。