図1 GE-PONのシステム構成と特徴 局内装置のOLTとユーザー宅に設置するONUで構成。複数ユーザーで1Gビット/秒の帯域をシェアする,イーサネット・フレームをそのまま送受信する,などが特徴。ユーザー当たりの導入コストを下げられる。
図1 GE-PONのシステム構成と特徴 局内装置のOLTとユーザー宅に設置するONUで構成。複数ユーザーで1Gビット/秒の帯域をシェアする,イーサネット・フレームをそのまま送受信する,などが特徴。ユーザー当たりの導入コストを下げられる。
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図2 GE-PONの上り衝突回避の仕組み OLTが司令塔となり,衝突を回避する。各ONUからの上りデータの帯域要求に対し,動的に送信可能時間を割り当てる。
図2 GE-PONの上り衝突回避の仕組み OLTが司令塔となり,衝突を回避する。各ONUからの上りデータの帯域要求に対し,動的に送信可能時間を割り当てる。
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萩本 和男 NTT未来ねっと研究所 フォトニックトランスポートネットワーク研究部長
奥村 康行 NTTアクセスサービスシステム研究所 第一推進プロジェクト プロジェクトマネージャー
丹羽 佳明 NTTアクセスサービスシステム研究所 第一推進プロジェクト

アクセス網の光化を実現するためには,光ファイバ設備だけではなく,光信号の送受信を担う光アクセス・システムが重要なポイントになります。その最新システムが「GE-PON」。高速性と経済性を兼ね備え,FTTH普及の起爆剤として期待されています。

 GE-PON(ジーイーポン,gigabit Ethernet-passive optical network)は,FTTH(fiber to the home)サービスを高速かつ安価に実現する最新技術です。IEEE 802.3ahが2004年6月に,高速光アクセス方式の一つとして標準化。日本では2004年後半から,GE-PONを採用した商用サービスが始まりました。

 GE-PONの高速性を生かすことで,高品質なIP映像伝送,IP電話,テレビ電話サービスが提供可能になります。FTTHサービスの付加価値を高めることが期待されています。

イーサネット採用で低コスト化

 GE-PONの特徴は(1)PONを採用,(2)伝送速度が1Gビット/秒と高速,(3)イーサネット・フレームのまま送受信,の三つです。

 PONシステムを採用することで,1ユーザー当たりの導入コストを下げられます。PONは複数ユーザーで装置や光ファイバを共有する方式だからです。PONシステムは,局内装置となるOLT(optical line terminal)とユーザー宅に設置するONU(optical network unit)で構成します(図1)。OLT-ONU間は光ファイバで結び,途中に光スプリッタと呼ばれる光合分波器を設置。ここに複数のONUを接続します。例えば32台のONUで共有する場合でも,伝送速度が1Gビット/秒のGE-PONなら,1ユーザー当たり最低30Mビット/秒程度の帯域を確保できます。

 イーサネット・フレームのまま送受信することで,機器もシンプルになります。LANで発展し価格もこなれたイーサネット部品が流用可能なことから,機器のコスト削減につながるでしょう。

IEEEの正式名称は「EPON」

 GE-PONの標準化作業は,イーサネットをアクセス系へ適用することを目的に始まりました。標準化を進めるIEEE 802.3ahでは,イーサネットを使ったPONであるため,「EPON」という正式名称が付いています。しかし日本ではギガビットを強調するために,GE-PONと呼ばれることが多いようです。

 IEEE 802.3ahでのGE-PONの仕様は,物理層,データリンク層にまたがります。物理層では,光信号の送受信レベルや波形などを規定。利用できる光信号規格は,伝送距離が10kmまでの「1000BASE-PX10」と,20kmまでの「1000BASE-PX20」の2種類です。

 なお,各ONUは受信信号の中から自分あての信号だけを取り出す必要があります。下り信号は光スプリッタで受動的に分波されることから,全く同一の信号を全ONUが受信するからです。各ONUが自分あての信号を見分けられるように,イーサネット・フレームの先頭に識別子を格納しています。

 データリンク層では,PON特有の信号制御方式を記述しています。光スプリッタで合波される上り信号を,衝突させることなく制御する必要があるからです。GE-PONではOLTが司令塔となり各ONUに送信可能時間を割り当てます(図2)。

 なお,この割り当てポリシーはIEEE 802.3ahで規定されていないため,各事業者やサービスごとに変更可能です。このほか暗号化機能などもIEEE 802.3ahには規定されておらず,サービスごとに独自の仕様を盛り込みます。

 GE-PONは標準規格であることから,製品同士の相互接続性の確保が容易です。そのため,ブロードバンド・ルーターやADSLモデムのように,競争による製品の多様化や低価格化が進むことも考えられます。

 次回はFTTHの普及を支えた「B-PON」を,GE-PONと比較しながら解説します。