新規客の開拓や既存客のフォローに日々奔走するソリューションプロバイダの営業担当者。ユーザー企業から、不採算になりかねないような一方的な値下げを要求されたり、明確なテーマがないままに新たな提案を求められたりなどで、彼らは頭を抱えている。システム構築は、ソリューションプロバイダとユーザー企業の協力関係があってこそできるもの。そこで本誌は、ソリューションプロバイダの営業担当者210人へのアンケート*とトップ営業へのインタビューを実施。日ごろは「ユーザーの直言」を聞く一方の営業担当者に「ユーザーへの直言」をあえて語ってもらった。ユーザー企業と良好な関係を築くためのヒントを探ってみよう。

=文中敬称略


 「この間の注文、キャンセルできないか」「おたくはプロなんだから何でもできるだろう」「何かいいこと(賄賂)はないのか」—。ソリューションプロバイダの営業担当者は、いつこんな困った要求をする客に出くわすか分からない。

 本誌が10月下旬にITサービス業界の営業担当者を対象に、客との関係に関する緊急アンケート調査を実施したところ、210人から回答を得た。これによると、営業担当者がこれまでの営業活動で遭遇した困った客のパターンでは、「採算ラインを割り込みかねない価格の値下げを要求された」が134人と、圧倒的に多い。決算発表でも、業績不振の理由としてたびたび目にする「単価の引き下げ要求」で、営業担当者は矢面に立たされているのだ。

 アンケートに回答した営業担当者は「お客様の予算は低額であることが多い上に、要求仕様は予算内で構築できるレベルではない」と悲鳴を上げる。また、別の営業担当者は「ぼったくりをしているわけではない。しっかりと精査した工数と決められた単価を基に、費用を請求していることを理解してほしい」と訴える。過度な値下げは、結果としてシステムの品質だけでなくモチベーションの低下をもたらし、互いに不幸な結果になりかねない。

 営業担当者を悩ませるのは、値下げ要求ばかりではない。「明確な戦略やテーマもないのにもかかわらず新しい提案を要求された」(回答数71)、「既に発注先が固まっているのに“当て馬”として商談を打診された」(同68)、「何度話を聞いても、どんなシステムを作りたいのか明確にしなかった」(同51)との回答も多い。

 営業担当者は、ボランティアではなく、あくまでもビジネスとして提案活動に励んでいる。にもかかわらず、それに対して価値を認めてくれないのはあまりにも酷な話だ。「見積もりや提案にはそれなりの工数がかかる。本当にそのシステムが必要なのか不明確なまま提案させられるのは辛い」と、ある営業担当者は本音を明かす。

 質の高いシステムを構築するためには、ソリューションプロバイダとユーザー企業の協力が不可欠だ。ソリューションプロバイダは、客に媚びへつらうばかりではなく、時として毅然とした態度で客と対峙しなければならない。

 以下では、ベテラン営業担当者へのインタビューなどを基に、困った客の“傾向と対策”をまとめた。そして、客との良好な関係を築くための方策を探った。

見下して業者扱いする客

最善を尽くせば周りが評価してくれる

 「営業の仕事は、人間関係を熟成させていく過程が大切だ」。キーウェアソリューションズITソリューション事業本部SI事業部の田中孝一営業マネージャは、営業としての心構えをこう語る。

 そんな田中マネージャにも、どうしても人間同士の関係を築くことができない客がかつてあった。ある金融機関の情報システム担当者で、田中マネージャが腹を割って話そうとしても、なかなか心を開いてくれず、何かと田中マネージャに辛く当たった。時には競合他社と比較されて「お前なんかでは力にならない」と、冷たく言い放たれることもあった。ソリューションを提案しようとしても「お前らには関係ない」と、突き返された。

 この担当者の態度は、明らかに田中マネージャたちに対して攻撃的で見下していた。まさに“主従”のような関係に田中マネージャは「どうしたらこのお客様とうまく付き合えるのだろうか」と、頭を抱えていた。

 「せっかくお知り合いになれたのに、このような状況はとても辛いです」。田中マネージャは、思い切ってこの担当者に思いをぶつけた。ところが返ってきたのは「私は別に辛くない」とつれない返事。最後のカードを使い果たした田中マネージャは、いったんこの客への訪問をやめた。

 数カ月が経過して、田中マネージャがこの企業に電話した。すると、「担当者が変わりました」と告げられた。「新しい上司を紹介したいので来ていただけませんか」とも言われた。

 「田中さんなら一生懸命にやってくれますよ」と、田中マネージャは新しい担当者に紹介された。実は、田中マネージャを新しい担当者に紹介した社員は、田中マネージャが前任者に対して熱心に働きかけていたことを、高く評価していたのだった。信頼されているからこそ、新しい担当者を紹介してもらえる。「何も言わなくても、周りは見ているんだ」と、田中マネージャはしみじみと感じた。


10月24日から28日にかけてソリューションプロバイダの営業担当者に調査を依頼。(1)これまでの営業活動で困った客、(2)顧客と良好な関係を築くための手段、(3)顧客に対して分かってほしいこと—について尋ねた。(1)と(2)は選択肢から最大3つを選んでもらい、(3)については自由に記述してもらった。