▼関西電力は,2万3000ユーザーが利用するグループウエアをNotes R4.0からExchange Server 2003とOffice SharePoint Portal Server(SPPS)へ移行する。
▼500万ページに及ぶ紙の書類を電子化してSPPSで管理することによって,全文検索を可能にした。ExchangeとSPPSを連携することで,調査,書類作成,チームでの協調作業を効率化できた,という。
「会議で紙の資料を配ることは,ほとんどなくなった。会議で決まった今後の仕事内容は,その場でOutlookに入力できるし,必要な書類は全文検索で簡単に探し出せるようになった。書類の作成者も分かるので,詳しい担当者を見つけるノウフー検索もできるようになった」。関西電力経営改革・IT本部システム監理グループ マネジャーの飯田裕策氏は,こう語る。同社はExchange Server 2003とOffice SharePoint Portal Serverの導入によって,日常的に行う調査,書類作成,チームにおける協調作業といった業務を改善できた,という。
関西電力がグループウエアの移行を検討し始めたのは,2003年のことである(図1[拡大表示])。それまでは,1996年に導入したNotes R4.0と独自開発のポータル・サイトを利用していた。しかし,様々な問題を抱えていた。
Notesに様々な問題が発生
まず,Notesデータベースから業務に必要な情報を収集するのが困難だった。同社が利用していたNotes R4.0のクライアント・ソフトでは,タイトルだけしか検索できなかったり,複数のデータベースを横断して検索できなかったりしたためである。
エンドユーザーが作成したNotesのデータベースは1万個にも達したが,これらが十分管理されていない問題もあった。Notesは,既存のNotesデータベースを流用して簡単に新しいデータベースを構築できる特徴がある。エンドユーザーにNotesデータベースの作成を許可すると,現場での情報共有を進めやすい半面,作成者が異動したりすると管理がおろそかになる。このため蓄積したノウハウが活用されなかったり,利用されないデータベースのためにサーバーを稼働させる無駄があった。Notes全体では,20台以上のUNIXサーバーが使われていた。
このほか細かい点では,共有している文書ファイルが更新されてもデータベースを見ないとユーザーが気づかない,メールと予定を併せて管理できない,といった問題があった。
SPPSをまず導入
こうした問題を解決するため,関西電力は2003年12月に,マイクロソフトのSharePoint Portal Server(SPPS)を導入することから始めた。SPPSを選択したのは,検索機能が優れていたことと,Notesの将来性に不安があったためである。Notesとは異なり,SPPSでは掲示板の書き込み内容だけではなく,添付してあるWordやExcelなどのファイルの中身まで全文検索が可能だった。Notesの将来については,「@関数*が将来のNotesでサポートされなくなる可能性があった。既存のNotesデータベースを次期Notesに移行しなければならないなら,Exchangeへ移行しても大して変わらないだろう,と判断した」(飯田氏)。またクライアントでOutlookを利用すると,SPPSで共有している文書が更新されたときにメールで自動通知される点も評価した。
SPPSには既存のポータル・サイトを移行したほかに,独自の文書管理システム「e-Docu」を構築した。ここへは,複合機を利用して既存の紙の書類をスキャンしたものを保存していった。スキャンしたファイルは,OCR処理*され,テキスト・データを含むPDFファイルに自動変換される。これによって,SPPSから全文検索することも可能になった。
当時関西電力では,本店を2005年1月に新しいビルへ移転することが決まっており,紙の書類を少なくして保存スペースを削減しなければならなかった。「移転までの間に,500万ページ,ファイルを積み上げると3km分の紙の書類を削減した」という。
並行して,すべてのクライアントを更新する作業を進めた。同社はこれまでWindows 95とOffice 97が標準の環境だった。今後はWindows XPとOffice 2003を標準環境として統一した。この作業が完了した2004年11月にメールと予定の管理をExchangeに移行した。
SPPSは現在,合計2Tバイトのディスク容量を持つ5台のWindows Server 2003で稼働している。ポータル・サイトから検索キーワードを入力すると5秒程度で全文検索の結果が表示される,という。
Notesデータベースを順次移行
メールや文書管理はExchangeとSPPSへ移行したものの,1万個あるNotesデータベースの移行作業は,2005年8月から始まったばかりだ。掲示板や情報共有のためのNotesデータベースは順次SPPSのポータル・サイトへ移行することが決まっているが,業務用Notesデータベースは,移行方法すら決まっていない(図1[拡大表示],図3[拡大表示])。またNotesデータベースの移行は,「単純に移行するだけではなく,似たようなNotesデータベースは,できるだけ統合して移行する」という方針のため,簡単には進まない。
最もやっかいなのは,ワークフロー管理などを含む業務用のNotesデータベースである。現在のところ移行方法として,.NET*やJavaで開発し直す方法,マイクロソフトのInfoPath 2003を利用する方法などが候補に挙がっている。InfoPathはXMLを利用した帳票作成ソフトで,自由にフォームを設計して,XML形式のデータの入出力ができる。
移行が難しい場合は,Notes R4.0の稼働を継続させることも検討している。「Notes R4.0のサポートは終了しており,稼働し続けてもサーバーの運用コストしかかからない。ただし今後のアプリケーションの新規開発はNotesではなく,ExchangeやSPPSで動作するものにする」(飯田氏)。
エンドユーザー開発も継続
新しいグループウエアでは,Notesの問題点を解消すると同時に,Notesの利点であるエンドユーザーによる開発機能も引き継いでいる。用意されたテンプレートを利用すると,簡単にSPPS上に部門専用のサイトを開設して,Notesと同様に情報共有ができるようにしている。独自開発したワークフロー管理システムを使うと,アクセス権を細かく設定することも可能だ。「エンドユーザーは,1日のセミナーを受講するだけで,Outlookの操作から,部門のサイト開設までできるようになる」(飯田氏)。
今回のExchangeとSPPSの導入による,ハードとソフトのコストは約10億円と見られる。関西電力は,Enterprise AgreementでExchangeやSPPSを購入し,Core CAL*を選択した。今後は,クライアント管理ソフトをJP1からSystems Management Serverに移行して,Core CALをフル活用する。
旧Notesユーザーの進む道
Notesは,1990年代の後半に急速に普及し,現在も多くのユーザーが利用している。これらのユーザーが自社製品への移行を狙うグループウエア・ベンダーのターゲットとなっている。旧版のNotesユーザーが進む道は,主に4つに分かれる(図A[拡大表示])。 移行先を決めるには,独自開発したNotesデータベースの数やその複雑さがポイントとなる。ワークフロー管理や外部システムと連携するような複雑なNotesデータベースを構築している場合,ほかのグループウエアに移行するのは難しい。.NETやJavaを利用して開発し直さなければならないからだ。数が多ければ開発コストもかさむ。こうした場合は,Notesを最新版にする方がコストを抑えられるだろう。最新版の「Notes/Domino 7」では,従来のNotesで使われた独自の@関数のほか,.NETやJavaも利用できるようになっている。 一方,Notesをメール,掲示板,文書共有などの用途にしか使っていない場合は,ほかのグループウエアへ乗り換えるのは容易だ。Exchangeへ乗り換える場合は,OutlookをはじめとするOfficeソフトやOffice SharePoint Portal Serverと連携させて,使い勝手を高められる。これが業務効率の改善につながれば,Exchangeへの移行も有効だろう。マイクロソフトはNotesの掲示板をExchangeへ移行するための支援ツールを無償提供している。また新規の開発では,.NETやJavaを利用できる。 グループウエアの用途が今後もメールや掲示板を中心とした限定的なものでよいなら,サイボウズやネオジャパンなどが販売するWebグループウエアに移行する方法がある。1ユーザー当たりの価格は,ExchangeやNotesよりも安い。 サポート切れを気にせずに旧版のNotesを使い続けるのも,一つの選択肢だろう。だが,Windowsやブラウザのバージョンアップによって,今後Notesクライアントが利用できなくなったり,ブラウザ経由でドミノ・サーバーにアクセスできなくなる恐れがあるので,注意が必要である。 |