表1●マイクロソフトのボリューム・ライセンス制度
表1●マイクロソフトのボリューム・ライセンス制度
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図1●ライセンス,ソフトウエア・アシュアランス,サブスクリプションの違い
図1●ライセンス,ソフトウエア・アシュアランス,サブスクリプションの違い
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表2●Enterprise Agreement(EA)とEnterprise Subscription Agreement(ESA)の違い
表2●Enterprise Agreement(EA)とEnterprise Subscription Agreement(ESA)の違い
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図2●Office Professionalを購入した場合の累計ライセンス利用料の比較<BR>250本のOffice Professionalを購入すると仮定して,パソコン1台当たりに必要となるライセンス費用の累計を比較した(価格/料金は編集部の推定)。10年以内の継続利用の場合は,Enterprise Subscription Agreementの方がEnterprise Agreementより「お得」である。
図2●Office Professionalを購入した場合の累計ライセンス利用料の比較<BR>250本のOffice Professionalを購入すると仮定して,パソコン1台当たりに必要となるライセンス費用の累計を比較した(価格/料金は編集部の推定)。10年以内の継続利用の場合は,Enterprise Subscription Agreementの方がEnterprise Agreementより「お得」である。
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図3●ソフトウエア・アシュアランスの特典の一覧( 2006年3月以降)
図3●ソフトウエア・アシュアランスの特典の一覧( 2006年3月以降)
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▼マイクロソフトが2年ぶりにライセンス制度を大幅改定した。特に「サブスクリプション型(購読型)ライセンス」の条件が改善し,年額約1万3000円で「Microsoft Office」が利用できるようになった。
▼ソフトウエア・アシュアランス(SA)は「24時間365日のサポートを受ける権利」に位置付けが変わろうとしている。従来の「期間限定のバージョンアップ権」という位置付けよりも,メリットを享受できるユーザーが増えるだろう。

 マイクロソフトは2005年9月16日,ライセンス制度の改定を発表した。柱は2つある。1つは,サブスクリプション型(購読型)ライセンス制度の拡充で,制度の新設や料金値下げを実施した。2つ目は,ソフトウエア・アシュアランス(SA)の特典の拡充である。2006年3月以降,SAを購入した全ユーザーに対して24時間365日のサポート(電話または専用Webサイト経由のメール・サポート)を提供する。ほかにもデスクトップOSのSA特典を特に拡充して,Windows Vistaの発売前にWindows XPパソコンを導入する企業にSAを売り込もうとしている。

 サブスクリプションやSAはいずれも,マイクロソフトが2001年10月から開始した制度である。その狙いは,「ユーザーから定期的に収入を得る」ことであった。マイクロソフトの悩みは,WindowsやOfficeの売り上げが,新バージョンの出る年と出ない年とで,大きく変わることだ。そこで,ライセンス料を毎年支払うサブスクリプションを導入したり,「期間限定のバージョンアップ権」で最短2年ごとに買い直す必要があるSAを導入したりしたのである。

 しかし,サブスクリプションやSAがユーザーに受け入れられているとは言い難かった。従来のサブスクリプションは,料金面でメリットがあまりなかったし,250台以上パソコンがある企業でなければ契約できなかった。

 SAについても,「バージョンアップの度にライセンスを買い直した方が,SAを買い続けるよりも安上がり」というケースが多かった。編集部の推定では,250本の「Office Professional*」で,3年ごとにバージョンアップするのならSAの方が得,4年以上バージョンアップしないのなら買い直した方が得——であった。また,2000年代に入ってマイクロソフト製品のバージョンアップ頻度が下がり始めたため,バージョンアップ自体の魅力が低下していた。

 マイクロソフトは今回の制度改定で,サブスクリプションとSAをユーザーにとって有利なものに変更している。サブスクリプションは料金水準が低下したし,SAは単なる「バージョンアップ権」から「24時間サポートが受けられる権利」に位置付けが変わろうとしている。サブスクリプションやSAは,十分検討に値する制度になったといえる。

全社一括ならサブスクリプション有利

 マイクロソフトが提供しているボリューム・ライセンス制度は表1[拡大表示]の通りである。今回制度を拡充したサブスクリプションとは,ソフトウエアを利用する期間限定の権利を買う制度である。現在のボリューム・ライセンス制度には,原則としてバージョンアップ・ライセンスがない。バージョンアップするためには,ライセンスを買い直すか,ライセンス購入時にSAを同時購入しておく必要がある。しかし,サブスクリプションであれば,常に最新のバージョンが利用できる(図1[拡大表示])。

 サブスクリプションはこれまで「Enterprise Subscription Agreement(ESA)」という,パソコンが250台以上ある企業が全社一括で契約する制度しかなかった。それが2005年10月から「Open Value」というパソコンが5台以上あれば契約できる制度が新設された。

 従来からの制度であるESAも,Enterprise Agreement(EA)と比較して条件がかなり魅力的になった(表2[拡大表示])。

 EAとESAはどちらも全社一括で契約する制度である。EAの場合はライセンス料とSA料を毎年分割で支払い,ESAの場合は利用料を毎年支払う。社内のパソコン台数が変化した場合,毎年契約上の台数も変更する必要がある。ところがEAの場合,台数が増えた際には1年単位で支払い額が増える一方で,台数が減少しても4年目の契約更新時でなければ支払い額が減らなかった。それに対してESAは,台数が減った場合,毎年支払い料金を変更できる。リストラなどで社員が減ってパソコンの台数も減れば,翌年の料金もその分少なくなるのだ。

 費用の面でもESAがかなり有利だ。図2[拡大表示]は250本のOffice Professionalを購入(利用)した場合に,パソコン1台当たりに必要となるライセンス費用の累計を比較したものだ(価格/料金は編集部推定)。10年目までの累計料金は,ESAを利用するのが最も低くなる。10年後もOfficeを購入するかどうかは,不確定要素が大きいので,ほとんどのケースでESAが最も有利になる制度と考えてよい。

24時間サポートが受けられるように

 もう一方の柱であるSAの特典を見てみよう。マイクロソフトがSAに対してバージョンアップ以外の「特典」を初めて追加したのは,2003年11月のことであった。しかしその特典内容は,「Windows PE*」などの提供で,利用者が限られるものが多かった。それに対して2006年3月以降に追加される特典は,多くのユーザーにとってメリットのあるものが目立つ。

 特に注目すべきなのは,OS,Office,サーバー製品のSAを購入したすべてのユーザーが,ライセンスの購入額に応じて24時間365日対応の電話サポートが受けられるようになることである。

 現在,24時間365日対応の電話サポートを受けるためには,1000万円単位の費用がかかる「プレミア・サポート契約」を結ぶ必要がある。それが今後は,SAを買うだけでサポートを受けられる。また専用のWebサイト経由でマイクロソフトに連絡するメール・ベースのサポートであれば,24時間365日,回数無制限でサポートを受けられる。

 サポートの詳細はまだ不明だが,マイクロソフトの技術者に直接質問できる現在のインシデント制*電話サポートがそのまま利用できるのであれば,かなり魅力的な制度になるだろう。

サポート以外の特典は限定的

 サポート以外にも,「Virtual PC Express」の無償提供など,デスクトップOSのSAの特典が数多く追加される(図3[拡大表示])。しかしデスクトップOSの特典は,これからWindows XPパソコンを購入するユーザーが対象であることに注意が必要だ。

 なぜならデスクトップOSのSAとは,パソコン購入後90日以内にだけ購入できるものだからだ。既にWindows XPパソコンを使っているユーザーのほとんどは,SAを追加購入できない。デスクトップOSのSAが有利なのは「Windows Vistaへの移行を考えつつも,ハードウエアの寿命が切れそうなので,Vistaを待たずにWindows XPパソコンを購入せざるを得ない」というユーザーであろう。

 従来もSAを買っていれば,1台のパソコン上で2個(インスタンス)のWindowsを起動する権利が与えられていた。これまではVirtual PCなどを別途購入したり,マルチブート環境を構築したりする必要があったが,2006年3月以降はVirtual PC Expressが利用できる。SAを買うだけで,1台のパソコンでVistaとXPの両方を利用できるようになるのだ。デスクトップOSのSA価格は1本9900円(5本購入時,編集部推定)である。これでVirtual PC Expressと仮想マシン用のOSライセンスが入手できると考えると,悪い条件ではないだろう。