ファイル転送のスループットは2倍弱
それではいよいよギガビット・イーサネットのスループットを測る。
最初は,パソコン2台*をギガビット・イーサネットで接続し,ファイルをコピーする時間を測る実験からだ(図2[拡大表示])。具体的には,サーバー役のWindowsパソコンの共有フォルダに526Mバイトのファイルを置き,クライアント・パソコンがそのファイルをコピーして,終了するまでの時間をストップウォッチで測定した。
ギガイーサの接続は,サーバーとクライアントの両方とも内蔵のLANポートを使って調べたあと,クライアント側をUSB2.0接続のアダプタ*に取り替えて同じ測定を行った。また,参考データを得るため,中間に置くLANスイッチを100BASE-TX対応品に取り替えて,100メガ・イーサネットのケースも調べた。実験は5回ずつ行い,中間の3回分の平均値を見た。
この結果わかったのは,ギガビット・イーサネットのスループットが予想外に低いことだ。内蔵ポートで123Mビット/秒,USB2.0接続に至っては92Mビット/秒しか出ていない。伝送速度が10分の1しかない100メガ・イーサのスループットが67Mビット/秒だったから,どちらも2倍に満たない。
では,100メガと1ギガの間にある10倍の伝送速度の差はどこへ消えたのだろうか。わからないことを専門家に聞きに行くのも調査隊の仕事。ということで,まずはLAN機器のベンダーであるアライドテレシスに話を聞きに出かけた。
パソコン内部にボトルネック
「アダプタをギガイーサ対応のものに替えてもファイル転送のスループットは10倍速くなりません。テスト環境でも600Mビット/秒のスループットが出ればいい方ですから」と話してくれたのは,プロダクトマーケティング部課長の坂田晃己氏だ。普及価格帯のパソコンを使ったファイル転送の実験では,ギガビット・イーサネットの能力を100%引き出すのは難しいという。
理由は,大容量ファイルをコピーする方法でスループットを測定すると,LANの速度以外の要素が結果に大きく影響するから。送信側でファイルをディスクから読み取ったり,受信側で書き込む処理でスループットが大きく左右されるという。
また,パソコン内部とイーサネットの処理回路を接続する部分のボトルネックもある。LANスイッチからイーサネット・ポートまでは1Gビット/秒で通信できても,パソコンがそれを受け取れないかもしれないのだ。
例えば,普及価格帯のパソコンでは,周辺機器制御チップとギガビット・イーサネット・チップを32ビットのPCIバスで接続するケースが多い。この部分の転送速度が足りなくなる。PCI拡張バスに普及品のギガビット対応のLANアダプタを挿して使うケースがこれに当たる。安価なパソコンの内蔵ギガイーサ・ポートでは,イーサネット・チップが拡張スロットと同じPCIバスに接続されていることがある*。この場合も話は同じだ。
32ビットのPCIバスの容量は約1Gビット/秒しかない。ギガビット・イーサネット・チップが片方向の通信をするだけでいっぱいになってしまう。これより速度の遅いUSB2.0ではもちろん,1Gビット/秒に近いスループットが出るわけがない。
サーバーや高性能パソコンでは,この問題を解決するためにいくつかの工夫を施している(図3[拡大表示])。その一つが,パソコン内部にギガビット・イーサネット専用の接続ポートを設ける手法である。インテルは,CSA*と呼ぶポートを一部の高性能パソコン用チップセット*に採用済み。CSAは最大2Gビット/秒の転送能力があるので,ギガイーサの通信に耐えられる。
一方,サーバー・マシンでよく使われているのが,64ビットPCIやPCI-X,PCI Express(エクスプレス)*といった高速な拡張スロットを採用するという方法である。64ビットPCIなら32ビットPCIバスの約4倍の転送速度を持つから,ギガビット・イーサネットで全2重の通信を行っても十分足りる。PCI-X,PCI Expressはさらに高速だ。
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