米セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ会長兼CEO(最高経営責任者)
米セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ会長兼CEO(最高経営責任者)
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 「ユーザー企業はオンデマンド型の利用形態に移行する。そこに進めないITベンダーは死んでしまうだろう」。CRM(顧客関係管理)ソフトをASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)方式で提供する米セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ会長兼CEO(最高経営責任者)は、オンデマンド・コンピューティング時代の到来を強調する。

 「IT資源は電気、ガス、水道、電話に次ぐ第5番目のユーティリティになる」。米IBMのルイス・ガースナー会長(当時)がこう予測してから6年近くが経過した。ユーザー企業がハードやソフトなどのIT資源を使いたいとき、いつもで自由に使え、しかも使った分だけの料金を支払うのがオンデマンド・コンピューティング(ユーティリティ・コンピューティングとも呼ぶ)。ソフトをインターネット経由で時間貸しするASPはその先駆けのビジネスモデルだ。ユーザー企業にとっては、IT資源を自前で装備する必要がないので初期投資を抑えられるし、複雑な運用管理からも解放される。ソフトのバージョンアップの度に追加費用を求められることもないし、1人当たり月額数万円といった明確な料金体系になっている。

 こんな特長をもつASPなのだが、これまでは中堅・中小ソフト企業向けの会計や人事などといった単一のソフトが多かった。大手ソフト会社もASPに乗り出すものの、ソフト販売と保守から利益を得るというビジネスモデルへの影響を懸念している。それでもユーザー数の拡大で損益分岐点を超え利益を上げるASPは出てきた。ジャストプランニングの外食産業向け受発注システム、新日鉄ソリューションズの図面・文書管理システム、内田洋行の個別荷物追跡システムなどである。

 もちろんセールスフォースもそうだ。同社は2000年からCRMソフトのASPを本格的に開始し、この8月末でユーザー数は1万6900社、利用者は30万8000人に達した。05年1月期の売上高は前期比84%増の1億7600万ドル。この上半期も80%で成長しており、ASPの売り上げは日本のソフト会社より1ケタ以上多い。

ASPプラットフォーム・ベンダーになる

 だが、多くのASPは自社ソフトの提供のみで、それ以上の広がりがなかなか難しいのが現状。プラットフォームも自前で構築するものの、ユーザー企業の立場で考えれば、A社の財務ソフトにB社の人事ソフト、C社の生産管理ソフトを組み合わせて使いたい。そこでセールスフォースは、数多くのソフト会社が共有して利用できるASPプラットフォームAppexchangeを、この12月から本格的に提供開始する。

 ベニオフ氏によると、Appexchangeはインターネット・オークションのイーベイやアップルコンピュータの音楽配信サービスiチューンズミュージック・ストア、アマゾン・ドット・コムのオンライン販売などを参考に編み出したもの。iチューンズミュージック・ストアの中から自社に必要なソフトを検索し探し出す。そしてアマゾンのように、そのソフトを利用したユーザーの感想を聞き、自分自身で評価し、良かったら使う。BtoC(企業対消費者)の考え方をBtoB(企業間)の世界に取り入れるというわけだ。

 ソフト会社にもメリットがあるという。例えば1社のユーザーにしか利用されないソフトがあるとしよう。そのソフト・ベンダーは別の売り先をなかなか見つけられない。一方、そんなソフトを求めているユーザーは市場に流通していないので自社で開発する。その仲立ちをAppexchangeがするというわけだ。

 セールスフォースはASPのサービス・プロバイダであるとともに「プラットフォーム・ベンダーになる」(ベニオフ氏)。実はこうした動きをIBMは6年前に予想している。オンデマンド・コンピューティング環境を提供する巨大なサービス・プロバイダは世界に20~30社登場し、IBMはその1社になるとともに、他のサービス・プロバイダにITインフラを提供する考えを持っていた。それに向けてIBMなどが仮想、自律、Webサービスなどの技術開発に力を入れてきたことからすると、セールスフォースは一歩先を進み始めたといえる。既存のビジネスモデルを壊しかねないオンデマンド・コンピューティングを手掛けるには「情熱、エネルギー、ビジョン、そして強いリーダーシップがいる」(ベニオフ氏)。

 セールスフォースにとっては、CRMソフト市場におけるリーダーを目指すためでもある。この9月に米オラクルが買収を発表した米シーベル・システムズや独SAPなどの競合ベンダーは、大手企業の獲得からセールスフォースが得意とする中堅・中小企業へと利用層の拡大を図り始めている。特にシーベルは昨年末で4000社以上、利用者数320万人以上とセールスフォースの10倍以上の利用者を抱えている。ASPユーザーも1000社に達する。

 その戦いに勝利するカギを握るのが、共有プラットフォームの利用に賛同するITベンダーをいかにして増やすかだろう。CRMソフトを補完する業種、業務ソフトを用意する計画で交渉を進めており、目下のところ数十種類のソフトがAppexchangeにのることが決まっているという。セールスフォースは100社以上のITベンダーに利用してもらうことで、利用者を100万人に広げる考えである。