図●富士通はパートナー企業と生産性向上を進める
図●富士通はパートナー企業と生産性向上を進める
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富士通は10月から、開発パートナー企業の生産性向上の支援に乗り出した。トヨタ式のカイゼン手法を導入してパートナー企業とともに業務の改善を進めるのが骨子だ。背景には、コストダウンと品質を両立させるには、地道な改善活動が不可欠との判断がある。

 10月にグループ企業を含めたパートナー支援に乗り出したのは、電力・通信業界を対象にシステム開発を請け負う「社会基盤ソリューションビジネスグループ」。7月から9月末にかけて、富士通とパートナー企業の社員合わせて13人にトヨタ式のカイゼン手法のコンサルタントの指導を受けさせ、「改善リーダー」として育成した。

 13人は現場の実務を担う、課長やリーダー・クラスの人間である。10月以降、自分が担当するプロジェクトにおいて、プロジェクトの推進と並行して開発作業のムダをなくす改善活動に従事する。

 富士通がパートナー企業を巻き込んだ生産性向上に取り組む背景には、「このままでは顧客が満足する価格と品質を維持できなくなる」(宮田一雄 経営執行役 社会基盤ソリューションビジネスグループ副グループ長)という危機感がある。

 これまで顧客からのコストダウンの要求に応えるためにパートナー企業にもコストダウンを依頼してきたが、「パートナー企業には自助努力を期待するだけだった」(ソリューション開発センターの大橋修一ビジネス推進統括部プロジェクト部長)。結果としてパートナー企業は、量をこなすために、さらに下請け企業に発注することになり、品質チェックが甘くなるといった問題が起きるケースがあった([拡大表示])。

 それを食い止めようと事業部単位で支払い単価を上げたいと思っても、富士通では調達部門が支払い単価を決めており、各事業部門に支払い単価の決定権がない。「パートナー企業には、コストはどうあれ、品質を保てる“体質”になってもらいたい。その実現には、下請けを使わなくても利益が出せるように生産性を上げてもらうことが不可欠と考えた」(大橋部長)。

 もちろんパートナー企業にとって、改善活動自体が負荷になる可能性がある。そのため富士通は、パートナー企業が改善活動に参加するメリットを強調する。「改善活動に必要なノウハウやツールを積極的に公開する。富士通以外の案件でも手法を使ってもらって構わない」と宮田経営執行役は話す。

 各プロジェクトの改善リーダーはまず、コンサルタントの指導で得た“無駄のないワーク・スタイル”を提示する。各メンバーが集中して作業を進められるように、タバコを吸ったりトイレに行く時間を、1時間半ごとに10分設けた休憩時間に限定したものだ。その上で、「ユーザー・インタフェースの設計」、「打ち合わせ」など個別の作業内容にかかった時間や、作業に取り掛かるまでの待ち時間を独自のツールに入力してもらう。

 得られたデータを基に、いかにすれば待ち時間が減らせるかのアイデアを、皆で出し合う。チームごとに目標を立て、その成果を半年に一度の発表会で公表。目立った成果を上げたチームは表彰する。パートナー企業を含めて5000人規模の社会基盤ソリューションビジネスグループで成功させ、全社展開へつなげる計画だ。