多数のIT関連資格が乱立する中、「ビジネスに本当に有効な資格とは何か」を見極めることはますます難しくなってきた。ソリューションプロバイダの中で、自社の事業戦略と現状を再確認し、社員教育や実際の商談などへの効果に照らして「いる資格」、「いらない資格」を選別しようという動きが広がっている。
 2006年に取らせたいのはどの資格か。営業上の効果が高いのはどの資格か。本誌は今年も、有力ソリューションプロバイダ72社の本音を集めた“資格の通信簿”をお届けする。

=文中敬称略


 社員にどのIT資格の取得を促すべきか—。ソリューションプロバイダで人材開発や研修企画などを担当する部門の多くが、この問題で頭を抱えている。


図1●社員に取らせたいIT資格
 日経ソリューションビジネスは2005年10月、上場およびそれに準ずる有力ソリューションプロバイダ134社に対して「IT関連資格の有効性に関するアンケート調査」を送付し、72社から回答を得た(有効回答率54%)。その結果、技術職に取らせたい資格の1位は「情報処理技術者試験プロジェクトマネージャ」、営業職に取らせたい資格の1位は「情報処理技術者試験初級システムアドミニストレータ」となった(図1[拡大表示])。また技術職では、1位と僅差で国際資格の「PMP(Project Management Professional)」が2位になっており、プロマネ需要はまだまだ強いことが分かる。

 回答者の自由意見からは、資格の選択に悩む人材開発や人事部門の姿が特に浮き彫りになった。「公的資格、ベンダー資格ともに種類が多すぎる。何のための資格か、誰のための資格かを疑問に感じている」(メーカー系ソリューションプロバイダ)、「類似の資格が乱立し、非常に混乱している」(独立系ソフト会社)という声があったほか、「類似の資格や認定は統合するか、相互認証などの措置があるとよい」(大手システムインテグレータ)という意見もあった。

過ぎ去った“資格バブル”

 90年代、オラクルやマイクロソフトといったオープン系有力ベンダーの認定資格取得者数はうなぎ登りだった。これら“デファクト製品”の認定資格ならば、学んだことが無駄になる可能性は低いとみて、多くのソリューションプロバイダが社員研修などに組み込んだ。その結果、多くの社員が製品に触れる機会はないにもかかわらずベンダー資格を持っている、という状況が生まれた。あるITサービス企業の幹部はこの時期を「言ってみれば“資格バブル”だった」と振り返る。

 しかし2000年を境に、状況は変わってきた。社員にIT資格を取らせることの損得を、ソリューションプロバイダが冷静に見直す動きが広がったからだ。「報奨金や手当を設け、多数の社員にIT資格を取らせた。当社にとっては新規市場であるITサービス市場での存在感を増すためだ。しかしそれが、業績向上につながったのかと言われると、正直言って分からない」。ある通信事業者系の大手ソリューションプロバイダの取締役はこう打ち明ける。

 研修サービス大手グローバル ナレッジ ネットワーク(東京都渋谷区、尾藤伸一社長)の久保田謙司ナレッジソリューション本部副本部長ナレッジソリューションセンター担当は、「以前は社員の潜在能力に会社が対価を支払っていた。しかし最近では、社員が発揮する能力に対価を支払う方向に進んでいることは確か」と、こうした動きの背景を指摘する。

なおも進むベンダー資格離れ

 今回の調査でも、ベンダー資格を社内の人材開発などに利用してきたソリューションプロバイダからは、ベンダー資格に対する厳しい意見が寄せられた。「資格制度の改訂やバージョンアップが余りにも頻繁で、資格取得に対する意欲が低下してしまう」(独立系ソフト会社)。このほか「ベンダー資格はマーケティング戦略の影響を強く受けるので、参考程度にしか活用していない」(独立系SI企業)という声もあった。

 2004年、国内で最も多くの受験者数を誇ると言われる日本オラクルの認定資格で、こうした問題点が浮き彫りになるような異変が起きた。日本オラクルが2003年10月に、技術者認定制度の草分けとも言える「ORACLEMASTER」を大幅に改訂した後、受験者数が激減したのだ。

 大手IT教育サービス企業の幹部は、受験者が激減した理由についてこう見ている。「大幅な改訂を契機に、それまで社内の人材開発制度などにORACLEMASTERを組み込んできたソリューションプロバイダの多くが、IT資格の見直しを始めたのだろう」。世界共通の体系に合わせるため、という改訂の意図は理解できても、これまで社員に取得させたORACLEMASTERの資格が改訂によって「古い資格」になったり、一段階格下げされたりする。そのことでソリューションプロバイダ各社に動揺が走った。

 それ以前から、ソリューションプロバイダが教育や研修のための全社予算を公的資格やベンダー中立の資格に集中させる動きは始まっていた。しかしORACLEMASTERの大幅な改訂が、そうした動きを加速する1つの材料になったことは確かだろう。

 実際、本調査を開始した2002年から今回までずっと、取らせたい資格ランキングの上位は公的資格やベンダー中立の資格ばかりという状況が続いている。

プロマネの人気はまだまだ続く

 調査結果の中から、取らせたい資格トップ10を見てみよう。技術職では2003年、2004年に引き続き、プロジェクトマネジャー向けの資格が人気だ。昨年はPMPが抜きんでて首位だったが、今年は情報処理技術者試験プロジェクトマネージャとPMPがほぼ並んだ。

 営業職に取らせたい資格の首位は「情報処理技術者試験初級システムアドミニストレータ」である。昨年は、「ITコーディネータ」が34%の支持率を獲得し、初級システムアドミニストレータと並んで首位だった。今年のITコーディネータは、支持率21%で2位に後退している。

 「取らせたい資格」では順位を下げたITコーディネータだが、営業効果への評価は高く、実に82%が「効果あり」と回答した。

・2004年10月に調査した「2005年版 いる資格、いらない資格」については、こちらのページからどうぞ