ソフトバンクBBの新垣明生・技術本部高度ネットワーク部担当部長
ソフトバンクBBの新垣明生・技術本部高度ネットワーク部担当部長
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 ソフトバンクBBが10月1日から新ネットワークを稼働していたことが明らかになった。同社が提供中のブロードバンド放送「BBTV」の全国展開に合わせたもので,米シスコシステムズの最高機種である大型ルーター「CRS-1」を20台近く導入した大規模なネットワークである。新ネットワークの設計にたずさわったソフトバンクBB技術本部高度ネットワーク部の新垣明生・担当部長に構築の経緯を聞いた。(聞き手は山根 小雪=日経コミュニケーション

--ADSLサービス「Yahoo! BB」開始当初,世界最大のIP網というふれこみだった。新ネットワークはどうか。

 現在でも世界最大のIPネットワークと自負している。全国4000以上のGC局でサービスを提供中であり,各GC局には1台以上のIPノードがある。この規模でユーザーの宅内まで含めて,単一のIPネットワークとして動作している。さらに,ネットワーク全体でマルチキャストを実装している。このようなIPネットワークは,他に類を見ない。

 当社のネットワークのトラフィック量は,9月末時点のピーク時の対外接続の合計で100Gビット/秒付近を推移している。これだけのトラフィックをさばくために,新ネットワークでは全国の基幹部分に20台近くのCRS-1を設置した。

--開発に至った経緯を聞かせて欲しい。

 ユーザー数の増加とともにトラフィック量は増加し続けている。ネットワークの増強は随時実施してきたが,抜本的な対策が必要になった。今までのルーターの処理能力は数百Gビット/秒。これでは処理し切れなくなってきた。

 Yahoo! BB開始当初のネットワークは,思っていた以上に早く限界が来た。このため,2002年の半ばには新ネットワークの増強計画を立て,2003年から徐々に強化していくつもりだった。しかし,2002年の後半はユーザーが毎月30万づつ増加。爆発的にトラフィックが増えて。対応に追われ増強計画を前倒しで進めたが,増え続けるトラフィック増にはいずれ対処し切れなくなると判断した。結果として,今回構築した別ネットワークを作ることになったのである。

 新ネットワーク構築の背景には,単純なトラフィックの増加以外の要因もある。1ユーザー当たりのトラフィック量が増加してきたのだ。また,ネットワークに流れるアプリケーションも,インターネット接続中心の従来型から,電話や放送といった品質を気にするものが増えてきた。

 近い将来,「BBTV」が軌道に乗ったら,爆発的にトラフィックが増えるだろうと予測していたため,BBTVのサービス提供エリアが全国に広がるタイミングで新ネットワークを構築した。今年の6月に構築を開始し,10月1日に全国で全面稼働させた。現在,既存のネットワークから新ネットワークへの移行を進めている最中だ。

--シスコシステムズのCRS-1の導入は,世界的に見ても早い。導入実績が余りなかったのことに不安はなかったのか。

 新ネットワークの要件として,BBTVを提供するためのマルチキャスト対応が不可欠だった。また,ネットワークの構成をシンプルにするために,マルチシャーシの製品を求めていた。相当の検討を重ねたが,昨年9月にシスコシステムズの「CRS-1」を採用することに決めた。

 ネットワークの規模が大きくなるに従って,ルーターの数がどんどん増える。障害時の影響範囲も広がってきた。特に放送サービスでは,どこかでメンテナンスをするたびに広範囲のユーザーに影響が出てしまう。このため,ノードの数を減らすことができるマルチシャーシが必須と考えた。

 過去に様々なメーカーのルーター製品を扱ってきたが,CRS-1は相対的には安定している。たしかに“初モノ”を使うのは,かなり勇気がいる。当社のネットワークは大規模。その分,リスクはさらに大きい。導入した感想としては,予想よりはずっとよかった。ネットワークの運用者は,新しい製品を導入するたびに新技術へのキャッチアップに追われる。だが,CRS-1についてはスムーズにやれたと感じている。