図1  微小球光共振器を使った光遅延機構<BR>屈折率が1以上の球体に光を浅い角度で照射すると,球体内で全反射を繰り返す。位相が揃う特定の波長の光が球体内部に保持される。
図1 微小球光共振器を使った光遅延機構<BR>屈折率が1以上の球体に光を浅い角度で照射すると,球体内で全反射を繰り返す。位相が揃う特定の波長の光が球体内部に保持される。
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図2  微小球光共振器のスペクトラム&lt;BR&gt;直径2.491μmと直径2.480μmの違いを明確に区別できる。資料提供:東京大学 五神教授
図2 微小球光共振器のスペクトラム<BR>直径2.491μmと直径2.480μmの違いを明確に区別できる。資料提供:東京大学 五神教授
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写真  微小球光共振器をV溝に並べた様子&lt;BR&gt;直径5.1μmの微小球を7個並べた場合,光の伝ぱん速度を40分の1に減速できた。資料提供:東京大学 五神教授
写真 微小球光共振器をV溝に並べた様子<BR>直径5.1μmの微小球を7個並べた場合,光の伝ぱん速度を40分の1に減速できた。資料提供:東京大学 五神教授
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 東京大学大学院工学研究科物理工学専攻の五神(ごのかみ) 真教授らの研究グループは,光の伝ぱん速度を40分の1まで落とす「光減速機構」を開発し,動作を確認した。光メモリーや光ルーターへの応用が可能な技術である。例えば,ヘッダの識別中にパケット・データを一時的に蓄えておく,光ルーターのバッファなどに使える。光減速機構は,「微小球光共振器」の原理を使って,光で高速伝送してきた情報を光—電気変換せずそのまま処理する。

 光をそのまま処理するには,光の屈折率を調整する微細な構造を高精度でつくる必要がある。その手法には,微小球光共振器方式のほか,シリコン基板上に数nmの精度で屈折率調整構造を形成する「シリコン・フォトニクス」技術が知られているが,最先端の微細加工技術と高い加工精度が必要で製造が難しい。「微小球光共振器方式は市販の微小球を並べることで光デバイスをつくることができる」(五神教授)というメリットがある。

 五神教授らは,直径5.1μmのプラスチック(polystyrene,屈折率1.59)製の球を7個並べた場合,40分の1まで減速したことを確かめた。透明度が高いシリカガラス製の微小球を使い,並べる球の数を増やせれば「200分の1以下にまで減速できる見込み」(五神教授)。

 微小球光共振器とは,屈折率が1以上の材料でできた球体に光を浅い角度で照射すると,光が球体表面内側で全反射を繰り返す原理を応用したもの。球体内部を周回する光のうち,位相が揃う特定の波長の光は,強く共振し,球体内部に保持される(図1[拡大表示])。この微小球光共振器を複数つなげ光の伝ぱんを遅らせることができるが,球の直径を揃えないと,途中で光が散乱してしまう。直径5.1μmの球では0.05%以下(約2nm)の精度が必要だ。

 この課題に対し五神教授らは,直径が1%バラついている市販製品のなかから0.05%のバラつきで選別する手法を確立した。具体的には,球体単体の共振波長を計測し,理論値の共振モードと照合すれば精度よく直径が分かる(図2[拡大表示])。

 光減速機構は,選別し直径を揃えた球体を,シリコン基板上に彫ったV溝上に並べた構造をとる(写真[拡大表示])。球体同士は静電気力でつながっている。球体とV溝との接触部分では屈折率が変化するので,伝ぱんする光は,V溝と接触していない部分の球体表面を伝わっていく(写真右上の図[拡大表示])。五神教授らは,球の数が最大8個まで,光が遅延しながら伝ぱんすることを確かめた。

 今回の機構を実際の製品に使うには,いくつかの課題を解決しなければならない。例えば,特定周波数だけでなく帯域幅を確保する必要がある。こうした課題についても,微小球光共振器を使った構造を工夫することで解決していく予定だ。