図1 FTTHとADSLの契約回線数の推移
図1 FTTHとADSLの契約回線数の推移
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図2 光ネットワークの構成例
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萩本 和男 NTT未来ねっと研究所 フォトニックトランスポートネットワーク研究部長
奥村 康行 NTTアクセスサービスシステム研究所 光アクセスシステムプロジェクトマネージャー
福徳 光師 NTT未来ねっと研究所 フォトニックトランスポートネットワーク研究部 フォトニックネットワーキング研究グループ 主任研究員

ブロードバンド・サービスの高速化とさらなる普及には,FTTH(fiber to the home)をはじめとする光アクセス技術が欠かせません。本講座では1年間にわたって,光ネットワークに関する技術を解説します。今回は光ネットワークの現状をまとめます。

 光ネットワーク技術は,陸上や海底の長距離通信網として実用化されて以来,20年を超える実績を持っています。世界中の通信事業者が電話の基幹網として構築しました。いまや日本国内の光ファイバの総延長距離は約700万kmにも及びます。ただバックボーン・ネットワークという性格上,光ネットワークがユーザーの目に直接触れる機会はそれほどありませんでした。

 ここにきて,光ネットワークは身近な存在になりつつあります。家庭まで光ファイバを伸ばすアクセス・サービス「FTTH」の本格普及が始まろうとしているからです(図1)。

 例えばNTTは,2010年までに約3000万ユーザーを光アクセス回線へ移行させる計画を打ち出しました。他の通信事業者も光アクセス・サービスの提供に積極的です。家庭までエンド・ツー・エンドの光ネットワーク普及に向けて,2005年は大きな節目の年になります。

ユビキタス時代を支えるインフラ技術となる

 FTTHのアクセス速度は100Mビット/秒以上と高速です。バックボーン・ネットワークの条件が整った場合には,デジタル・ハイビジョンと同等の映像サービスを家庭に提供可能です。

 デジタル・ハイビジョンの伝送には22Mビット/秒の帯域を必要とします。1Mビット/秒~数十Mビット/秒のADSLでは困難ですが,FTTHなら高品質な映像サービスの提供も夢ではありません。

 FTTH以外にも光ネットワークは活躍の場所を広げようとしています。自宅や会社はもちろんのこと,移動先でもシームレスにサービスが受けられるユビキタス社会が現実のものとして見えてきました。総務省も「e-Japanからu-Japanへ」という政策骨子を打ち出しています。

 このようなユビキタス・ネットワーク社会を実現するためには,情報家電(アプライアンス)やパソコンなどの端末はもとより,アクセス技術とそれを支えるバックボーン・ネットワークといった広範囲の社会インフラの充実が欠かせません。

 光ネットワーク技術は,こうしたIT時代を支えるインフラ技術となります。

広帯域化のニーズに応える

 一方,光ネットワーク技術に対する広帯域化のニーズは高まるばかりです。

 近年,必要な情報をやり取りする際の利便性は劇的に向上しています。ハード・ディスク装置などストレージの大容量化と,「Google」や「goo」といった検索エンジンの利用が進んでいるためです。例えばハード・ディスク装置の2003年出荷分の総容量は,これまで人類が蓄積した情報量といわれる12E(エクサ)バイトを上回るという報告もあります。

 またネットワークの利用方法として,人を中心とした通信の他に,情報家電やセンサー・ネットワークのような機械対機械の通信も増えていくでしょう。ネットワークに必要とされる帯域はこれからも増加していくと考えられます。

アクセスとコアから成る

 光ネットワーク技術はその適用領域によって,アクセス・ネットワークとコア・ネットワークに分類されます(図2)。

 光アクセス・ネットワークは,家庭から収容局までを光ファイバで接続したネットワークです。この領域にはGE-PONに代表されるFTTH技術があります。アクセス速度を100Mビット/秒~1Gビット/秒に高速化します。アクセス回線の経済化も実現目標の一つです。

 光アクセス・ネットワークによって集約されたトラフィックは事業者が提供するIP電話,インターネット接続などのサービスごとに振り分けられ,各コア・ネットワークへと導かれます。例えばインターネット接続のコア・ネットワークは,バックボーンの高速IPルーター間を接続する網となります。これはWDM(波長分割多重)技術を用いて数十波長で構成する光ネットワークです。こうしたWDM網をIPレイヤーから制御するGMPLSや,光信号のまま処理する光クロスコネクト(OXC)/ROADMの実用化も進められています。

 次回はコアからアクセスへと進展してきた光ネットワーク技術の軌跡をたどります。