自転車競技者のLance Armstrong氏が,ツール・ド・フランスで禁止薬物を使用したと非難されている。セキュリティの観点からは,このこと自体はそれほど興味深いことではない。血液と尿の検査は,禁止薬物の検出にいつも使われる手法だ。それよりも興味深いのは,1999年に採取した尿の検査を2005年に実施したことだ。

 1999年当時,血圧上昇作用のある問題の禁止薬物エリスロポイエチン(EPO)を検出できる試験はなかった。ところが今はEPOの有無を調べられる。何者かが古い尿のサンプルを持ち出し,EPO検査を行ったのだ(それにしても,一体誰がそんな古いサンプルの存在を知っていたのだろう?)。

 今回の尿検査のように,過去にさかのぼって調べられるセキュリティ・メカニズムというものは興味深い。警察が保存していた遺体に新しい検死技術を適用して調べることや,何十年も前に暗号化された文書を読むために新しい暗号手法を利用することによく似ている。

 今回の件は,禁止薬物の使用を考えている選手にも大きな影響を及ぼす。こうした選手は,現行のあらゆる検査手法をかいくぐるだけでなく,将来導入される可能性のあるすべての検査から逃れる方策も考えておく必要がある。過去の罪が露見すると,何十年もたってから記録を消され,メダルを剥奪され,タイトルを失ってしまうはずだ。

 一方,禁止薬物の使用経験を疑われた選手にとって,これまでは疑惑を否定する手段が限られていた。こうした選手は,血液と尿のサンプルの長期保管を第三者に委託するようになるだろう。保存状態のよいサンプルを使えば,過去のルール違反に対する告発に反論できる。

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◆オリジナル記事「Lance Armstrong Accused of Doping」
「CRYPTO-GRAM September 15, 2005」
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◆Bruce Schneier氏は米Counterpane Internet Securityの創業者およびCTO(最高技術責任者)です。Counterpane Internet Securityはセキュリティ監視の専業ベンダーであり,国内ではインテックと提携し,監視サービス「EINS/MSS+」を提供しています。