J-COMの森泉知行・代表取締役社長兼最高経営責任者
J-COMの森泉知行・代表取締役社長兼最高経営責任者
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 CATV統括会社大手のジュピターテレコム(J-COM)はCATV局の買収や提携など,大手通信事業者への対抗策を次々と打ち出している。携帯電話事業に取り組むことも表明済み。NTT,電力会社とともにユーザーへのアクセス回線を自社で保有するCATV局を束ねるJ-COMの森泉知行社長に戦略を聞いた。(聞き手は市嶋 洋平=日経コミュニケーション)

--かねてから携帯電話に取り組むと表明しているが進捗状況は。

 携帯電話は当社の規模やARPU(当社の顧客当たりの収入)を増やすために導入する。放送,インターネット,固定電話に続く4番目のサービスとして期待している。4という数字からクワドロプル・プレイとか,グランドスラム・プレイと呼ばれている形態だ。

 当社の携帯電話サービスは音声中心となるだろうが,既存の固定電話と連携させることで携帯電話のサービスが生きてくる。例えば,家庭のJ-COMの電話にJ-COMの携帯電話からかけた場合,通話料金をタダにするなどとすれば利便性が高いだろう。

--MVNO(仮想移動通信事業者)での参入を検討しているようだが。

 我々は携帯電話のインフラ部分の構築には乗り出さない。これまで成功しているCATVでのビジネス基盤を,携帯電話で失う気はさらさらないからだ。既存の携帯電話事業者のサービスを使わせていただく。リスクは少ないが,当然利益も少ないだろう。

 携帯電話は(PHSも含めたシェアで)3番目か4番目の事業者,もしくは両方と組みたいと考えている。これは近々に決めたい。そしてサービスは来年早々にも始めたい。我々のブランドを付けた携帯電話端末を使うが,端末の開発にまでかかわる考えは今のところない。

 現在,電話サービスを80万のユーザーが契約してくれている。これがそのうち100万までいったとして,その10%で携帯電話を利用してもらいたい。世帯で1台や2台契約する場合もあるだろう。J-COMのコール・センターから電話をかければ,営業の経費も少なくて済む。

--携帯電話の新規参入では,J-COMの親会社であるリバティメディア・グループがTD-CDMA方式のアイピー・モバイルに出資するとのことだが。

 J-COMとしても(アイピー・モバイルへの出資の)話を聞き興味を示したが,やはり当社はインフラに傾倒する気はない。そもそも,今から新規参入しても,すぐにはサービスを始められない。リバティメディアは投資の一環として出資するのだろう。もっとも,アイピー・モバイルが使えるサービスとなるのであれば,これは当然ながら利用させていただく考えだ。

--NTTグループやKDDIなど大手の通信事業者がCATVの本業である放送分野に乗り出している。どう対抗していくのか。

 当社は規模を大きくしていくと同時に事業の価値を上げて,NTTグループのような大手の通信事業者に対抗する。今までのCATVは地方の情報発信基地でよかったが,今は違う。

 一つの方策が加入率の向上だ。CATVは局ごとに営業エリアが決まっているが,当社はエリア内での加入率が26~27%と高い数字を保っており,ユーザー数は200万に達している。そしてもう一つが資本提携だ。大手の通信事業者と対抗していくには,サービスの拡充をするために新たな投資が必要だ。こうした投資ができないCATV局もある。

 J-COMが他のCATV局を買収をすれば,電話やビデオ・オン・デマンド(VOD)など,複数のサービスを提供できるようになる。現在,当社のARPUは7350円。5000円以下と見られる業界平均からするとかなり高い。J-COMと組んでもらえれば,競争力が増してARPUの向上が可能となる。

 例えば,先日買収した小田急ケーブルのエリア内の加入率はJ-COMの半分の13%。これをJ-COMのレベルにまで持っていきたい。さらに契約してもらうサービスを増やしてARPUも増やす。現状は小田急のARPUは5000円とJ-COMの3分の2だ。

--今後の買収計画はあるのか。また,最終的な目標は。

 今年中にはあと2件程度と考えている。提携になるかもしれない。小田急ケーブルよりは規模は小さいが,関東と関西で考えている。エリアは当社グループと接しているか,非常に近いところ。都市部が中心となるだろう。ユーザー数の目標については明確にはできないが,やはり300万の規模があればより積極的な展開が可能となりそうだ。

--ハード・ディスク・レコーダー内蔵のセットトップ・ボックス(STB)を導入すると表明していたが。

 12月は重要な商戦時期であり,年末にも投入したい。

 ユーザーへの提供方法は,既存のSTBを交換する形になる。ハード・ディスクの容量は250Gバイトで,チューナーを二つ積む。タイムシフトや裏番組の録画が可能となる。STBはレンタルの形で提供する考えで,月額800円ほどの上乗せにしたい。外付けのHDDレコーダーを購入することを考えれば十分に受け入れられるだろう。

--世帯視聴率を取得する考えらしいがその意図は。

 現在,2兆円のテレビ広告費の多くが地上波の市場に落ちている。これはCATVの視聴率データがないから。しかし,CATVはSTBを自宅に置いており,データを取るのは簡単。10月から取り組んでいるところだ。およそ600億から700億円の広告が,CATVに流れてきてもいいのではないか。

 一方で,地域の広告を取ることも考えている。角川書店グループと,地域の飲食店などの情報を扱うことを計画中だ。角川書店が無代誌を配り,当社がテレビとインターネットで情報を流す。レストランの店内や料理がVODなどで見られれば効果が大きいだろう。