あおぞら銀行が,大規模なシステム更改に取り組んでいる。関連会社を含む全社員約2500人に対して,Macintoshをシン・クライアントとして導入する。これはコミュニケーションの円滑化を進める「あおぞら情報革命」というプロジェクトの一環である。 日本で唯一の長期信用銀行であるあおぞら銀行。かつての日本債権信用銀行であり,1990年代末には経営不振から一時国有化され,2000年にはソフトバンクの傘下に入った。 その後,着実に経営健全化の道を歩んできたが,システムに関しては「ずっと投資を抑える方向にあった。クライアントのパソコンは6年ほど使っているケースがあるほど」(同社の川井良一執行役員リスク統括部長)。他の銀行との競争力の差が様々なところで現れ始め,社員のシステムに対する不満が溜まっていたという。 攻めの経営へ向けて「情報革命」
そんな中,ソフトバンクが2003年に,保有する全株式を米国の投資ファンド,サーベラスに売却。経営環境が大きく変わる中で,「使えるところにお金を使う方針に会社全体が変わってきた」(川井執行役員)。 また,攻めの経営に転ずる策を練る中で「社員のコミュニケーションが足りない」(ビル・シュート専務執行役員チーフテクノロジーオフィサー,写真)という課題も浮かび上がってきた。社員間の情報共有が十分ではなく,社員が気軽に会話できるようなオフィス・スペースも無かったのだ。 こうした課題を一気に解消すべく,同社は2004年5月から,「あおぞら情報革命」と名付けた大規模な社内改革プロジェクトを進めている。情報の流れを見直し,システムはもちろんオフィスのレイアウトや業務フローなど業務全般を改善する計画だ。 当初は,シン・クライアント,IP電話の導入,ネットワークの更改などインフラを中心に変更していく。システム設計は,同社のIT統括部と子会社であるあおぞら情報システムが担当した。 iMacを2500台導入
この計画でユニークな点は,業務用クライアントとしてアップルコンピュータの「iMac G5」を採用したこと。さらにローカルのHDDを使わないシン・クライアントとして利用する点も特徴である。 アップルコンピュータのサーバーOS「Mac OS X Server」は,複数台のMacクライアントの起動用に,ディスク・イメージをネットワーク経由で提供できる機能を持つ(NetBoot)。この機能を活用することで,Macをネットワーク・ブート型のシン・クライアントとして使う。 シュート専務執行役員は,「UNIXベースのOSによるセキュリティの堅牢性とシステムの安定性。そして操作しやすいプラットフォームであることが導入の決め手だった」と語る。 東京都千代田区の本社オフィスの一部や府中などの大規模拠点において,既に導入が始まっている。2006年6月までに,関連会社も含めた全行員約2500台分の導入を完了する予定だ。 “100人日”がわずか“2人時間”にシン・クライアントの導入は,端末管理の負荷軽減と情報セキュリティの確保が目的。 同社はこれまで,業務用クライアントとしてWindowsを使っていた。当初Windowsベースのシン・クライアント導入も考えたが,「Windows OSの脆弱性に起因する問題や手間を考慮した結果,Macintoshの方がいいと判断した」(川井執行役員)。 WindowsからMacintoshへとOSの環境が変わることでの業務への影響はほとんどないという。「従来のWindows環境で業務実態を調査したが,Microsoft Officeやメール,Webブラウザなどがメインだった。端末がWindowsである必然性はほとんどなかった」(シュート専務執行役員)。一部にWindows用に開発した業務系アプリケーションなどが残っていたが,こうしたソフトはWindows Terminal Server経由で,Mac上でも使えるようにする。 各社員が利用するOSのディスク・イメージは共通なので,メンテナンスの手間は大幅に減る。ジョー・デュハメルCTO部門担当部長は,「これまで“100人日”かかっていたOSのアップデート作業が,わずか“2人時間”で終了するようになった」とメリットを強調する。 管理の軽減のほか,出張先の拠点でも,普段と同じ環境で仕事ができる利点がある。 LAN/WANの帯域を大幅アップシン・クライアントの導入に先がけて,同社は2005年1月から3月にかけてネットワークを刷新した。同社が導入したシン・クライアント端末は,OSのディスク・イメージを起動時にネットワーク経由でロードする形態。ユーザーが使用するディスク領域もサーバー上にある。各拠点のクライアントは,データ・センターに置いたアップルコンピュータのサーバー「Xserve」にアクセスするため,ネットワークが遅いとクライアントの利用感を大幅に損なってしまう。 以前のネットワークは,アクセス回線にISDNや専用線などが混在し,帯域も十分ではなかった。それを今回のネットワーク更改によって帯域を大幅アップ。大規模拠点間は1Gビット/秒のWDMで結び,データ・センターと拠点間の通信は広域イーサネットに統一した(図)。 データ・センターの足回りは500Mビット/秒,拠点のアクセス回線は50Mビット/秒と十分な帯域を確保。これらのネットワークは,通信事業者4社のサービスを利用し,すべて二重化してある。WANだけではなく,オフィスのLANもギガビット・イーサネットで再構成した。 このようにLAN/WANの帯域を太くした結果,現時点でシン・クライアントの利用による問題は発生していないという。ネットワークやサーバーに最も負荷がかかるのはクライアントの起動時。「250台のMacintoshを同時起動するテストを実施したが,大きな問題は発生しなかった。仮に帯域が足りなくなっても,スケーラブルに帯域を増やせるネットワークになっている」(同社のジョナソン・フレッチャーIT統括部長)。
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Macをシン・クライアントに
情報の流れを改善して業務改革
あおぞら銀行
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