ニューヨーク市は2億1200万ドルかけて監視技術を導入する。地下鉄や橋,トンネルにビデオ・カメラ1000台と動体センサー3000台を設置するのだ。

 なぜこのようなことをするのだろうか?監視カメラがあってもロンドンの地下鉄爆破事件は防げなかったのに,なぜ導入するのだろう?監視カメラがテロや犯罪の減少に役立つ証拠などなく,非効率と考えられるあらゆる理由があるのに,どうして導入するのだろうか?

 導入理由の1つは,昨今の「映画のストーリーにあるような脅威」に対応するためである(記事末に参考記事として紹介したニュースのなかに,こうした「映画のストーリー」が何度も登場する)。記事には「テロリストがロンドンの地下鉄で爆弾事件を起こしたので,ニューヨークでも地下鉄を守る必要がある」とある。もう1つの理由は,ニューヨーク市当局が警戒しすぎているためだ。何も起こらなければ,お金の問題で済む。しかし何か起きれば,「可能な対策をすべて実行した」ことを示せないと職員はくびになってしまう。そこで,技術的な対策を導入しておけばみんなが安心するというわけだ。

 米国内でテロを防ぐのに2億1200万ドル使えるのなら,私はニューヨークの地下鉄に監視カメラを設置したりしない。ニューヨーク市をテロから守るのに2億1200万ドル使えるのなら,地下鉄の監視カメラなどに費やしたりはしない。カメラを設置しても,「映画のストーリーにあるような脅威」に対抗するための“セキュリティ・シアター(security theater)”*で終わる。

*訳注:ここでの“セキュリティ・シアター”とは,「実際のセキュリティ向上にはつながらないが,見た目から安心感を得ることのできる装置やルール」を指す。

 ただしニューヨーク市の取り組みにもよいところはある。鉄道警察の使う無線通信システムにも予算が割り当てられているのだ。その結果,地下にある駅でも携帯電話による通話が可能となる。ただしトンネルでは使えない。

http://www.nytimes.com/2005/08/23/nyregion/...
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/...
http://it.slashdot.org/it/05/08/23/2237220.shtml?...

監視カメラの有効性:
http://www.schneier.com/blog/archives/2005/07/...
http://www.schneier.com/blog/archives/2005/05/...

Copyright (c) 2005 by Bruce Schneier.


◆オリジナル記事「Cameras in the New York City Subways」
「CRYPTO-GRAM September 15, 2005」
「CRYPTO-GRAM September 15, 2005」日本語訳ページ
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◆この記事は,Bruce Schneier氏の許可を得て,同氏が執筆および発行するフリーのニュース・レター「CRYPTO-GRAM」の記事を抜粋して日本語化したものです。
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◆Bruce Schneier氏は米Counterpane Internet Securityの創業者およびCTO(最高技術責任者)です。Counterpane Internet Securityはセキュリティ監視の専業ベンダーであり,国内ではインテックと提携し,監視サービス「EINS/MSS+」を提供しています。