週明けの10月3日,突然,驚くべきニュースが飛び込んできた。マイラインや直収電話サービス「CHOKKA」を提供する平成電電が,東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請したのだ(関連記事)。

 ミュージシャンでもあり俳優でもある高橋克典氏をテレビCMに起用してCHOKKAの宣伝活動を行っていたこともあり,平成電電をご存じの方も多いだろう。開通ベースでは現在,CHOKKAのユーザー数は15万に上るという(関連記事)。

 直収電話とは,NTT東西地域会社の加入者回線を「ドライ・カッパー」として借り受けて提供する固定電話サービスのこと。電話回線そのものは東西NTTの設備だが,電話サービスの提供者はあくまでもドライ・カッパー借り受けた事業者。CHOKKAの場合は平成電電である。

 平成電電はその後の記者会見などで,「ユーザーに迷惑をかけない形で営業を継続する」(佐藤賢治代表取締役)と明言している。ただし,もし仮に経営が立ちゆかなくなったとしたら,当然,直収電話サービスを利用し続けることはできない。

 通信事業者が経営不振に陥るのは,これが初めてではない。これまでも,一部のPHS事業者や衛星携帯電話事業者などがサービスの停止に追い込まれた。しかしほとんどの場合は,経営が破綻する前に他社に吸収合併されたり,他社の同等サービスへの移管などが行われている。今回のように,社会インフラの重要な一角を占める固定電話を提供する事業者が,なんの前触れもなく突然,経営破綻を発表するのは初めてのケースである。固定電話の提供事業者が“つぶれる”などということは,今までは考えられなかったのだ。

 こうした事態になった背景には,通信事業者に対する規制が緩和されたことがある。以前は,通信設備を自ら持ってサービスを提供する「第一種電気通信事業者」と,通信設備を借りてサービスを提供する「第二種電気通信事業者」に分類されており,一種事業者は高い参入規制がかけられていた。これらをコントロールしていたのが監督官庁の総務省(以前は郵政省)である。通信サービスが停止される際には,他社への移管などを監督官庁が指揮を執ってやっていた。

 ところが今は,一種事業者,二種事業者の区別はすでにない。電気通信事業法が改正され,2004年4月1日にこの区分が撤廃されたのだ。

 今回の件に関して総務省は,「まず第一にユーザーの保護を考えてほしい。サービスを停止する場合は他事業者への円滑なユーザー移行を望む」としている(関連記事)。この発言からも分かるように,総務省としては,すでに平成電電に何かを指示・強制する立場にはない。

 重ねて述べるが,平成電電はサービスの継続を明言している。すぐにでもCHOKKAが使えなくなるといったことは,どうやらなさそうだ。現経営陣の経営責任は厳しく問われるべきだが,会社自体は存続し,電話サービスも継続されることが望ましい。しかし一方で,法律上は,ユーザーに対して1カ月前に告知し,総務大臣に届け出るだけで平成電電は電話サービスを停止できるという事実も知っておくべきだ。

 固定電話のみならず,携帯電話やブロードバンド通信サービスも,今後ますます必要不可欠な社会インフラとしての位置付けがなされてくるだろう。これらのサービスを提供する事業者は,固定電話以上に多岐にわたる。経営破綻といった事態に陥る事業者が,現れる可能性もある。規制緩和と引き替えに,通信サービスの利用に関してはユーザーの自己責任という側面が強まっているという事実は認識しておいた方が良いだろう。もちろん,そのうえでユーザー保護の観点が失われてはいけないということは,言うまでもないことだが。