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 日立製作所の情報通信再生の鍵を握るのは、前回指摘したようにHDD事業になる。そこで情報・通信グループ長兼CEOである古川一夫代表執行役・執行役副社長に具体的な再生計画を聞いた。(聞き手:田中克己=編集委員室主任編集委員)

----HDD事業の不振とSI(システムインテグレーション)における大口の不採算案件の発生で伸び悩んだ日立の情報通信。現在をどう見ているのか。

古川 確かに04年度は残念な結果になったが、方向性は間違っていない。これまで培ってきた業種・業務ノウハウに、日立のIT技術をかけ合わせることで新たな価値を生み出すという基本路線のことである。その方向に向けプラットフォーム(ハード)は世界で戦える製品やソリューションを出していく。特にストレージはRAID、HDD、それにストレージ・ソリューションといった垂直統合で世界のトップシェアを目指す。もちろんサーバーやネットワークも世界で戦えるようトライしているが、まずはストレージでトップシェアに挑戦することからはじめている。

 ソフト・サービスに関しては、SI絡みで大口の赤字案件があり、目標の営業利益率10%を達成できなかった。だが、(アウトソーシングやユーティリティ・コンピューティングなどといった)サービス型、フィ型ビジネスへのシフトで(その数字を)実践する。3つの方向性は、uVALUE(ユーバリュー)になる。日立全体のシナジーを出すもので、電機や自動車など他部門と一体になって新しい市場をクリエーションすることだ。この方向で05年度、06年度は(業績計画の)約束を守る。

---もう少し具体的な施策は。

古川 2010年に向けての次の計画を作成しているところで発表は来年2月頃になるので、クリアな話はまだできない。しかし、HDDに関しては製品開発やヘッドの歩留まりなどに課題があることは分かっているので、後はその解決に愚直に取り組むだけだ。この7月には日立グローバルストレージテクノロジーズ(2003年1月にIBMのHDD事業を統合した新会社)の責任者も交代させたが、幸い市場のデマンドは力強い。1インチ、2.5インチといったサイズ別、さらにはサーバー向けやモバイル向けといった用途別を見ても伸びている。フルラインナップ、垂直統合を推し進めながら(05年度は赤字だが)06年度、07年度に成長路線に乗せる。

---発表当時で全世界に11カ所(小田原、藤沢、シンガポール、メキシコ、タイ、中国など)の製造拠点を持ち、従業員2万4000人をかかえる日立グローバルストレージテクノロジーズ。しかし、旧IBMとのコミュニケーションがうまく行っていないという話が聞こえる。

古川 確かに当初は2つ(IBMと日立)のラインで同じものをやっていたこともあった。その結果、製品開発の遅れやオペレーションの非効率化もあったが、課題は抽出できている。2年が経ち、お互いの気心も分かってきたので、「これはこちらで」「あれはあちらで」となりつつある。それにHDD事業は日立全体の象徴的な案件で、この問題を乗り越えられないと真のグローバル企業になれないと思っている。だからこそ、私はこの問題にかなりの時間を割いてきた。

サーバー事業はBladeSymphonyに注力

---サーバーもストレージのようにフルラインナップと垂直統合を目指すのか。

古川 スーパーコンピュータやメインフレームの資産はまだまだ多くあるが、昨年9月に出した統合サービス・プラットフォームのBladeSymphonyを中心に展開していくことになる。もちろんメインフレームは残るが、ハード的にはBladeSymphonyと共通化を図るし、メインフレームの下位クラスの機能は実現できる。さらに、これをn倍することで、スーパーコンピュータも実現できると思っている。

 BladeSymphonyは単にオープン・サーバーというだけではなく、それを中心としたストレージやネットワークをきちんと確立させることを狙っている。国内ではサーバー統合などに使われ始めるなど、立ち上げのフェーズとしては満足している(8月末で約240台の実績)。海外展開のフェーズはストレージと異なるが、(世界トップシェアにする)志は同じである。

---オープン系ミドルウエアの品揃えも拡充していくのか。

古川 これまでのオープン化は行き過ぎた面があった(複数のデータベースやネット管理などのミドルウエアから選択し、組み合わせて利用する)。その結果、ユーザーの負担が重くなってしまったので、それをいかに軽くするのかがBladeSymphonyの役割でもある。日本はすり合わせが得意で、アジアは組み合わせが得意だとよく言われているが、組み合わせは誰でもできる。これからはすり合わせの能力を持っている人が強くなる。つまり、オープン性を持ったまま(ミドルウエアやストレージ、ネットワークなどを)統合していくことが重要になるということだ。

 サーバーの垂直統合という点では、OSやミドルウエアは標準化をキープしながらフレキシブルでスケーラビリティのあるものにする。そしてスーパーコンピュータやメインフレームを吸収できると考えている。だたし、メインフレームのソフトや周辺機器の資産は数多くあるので、それらを効率的に使えるようにする必要もある。

--- BladeSymphonyで世界に本当に出ていけるのか。

古川 IPF(Itanium2)の最高周波数で動くのは目下のところ当社だけだ。ハードは先端性を求められている。メインフレームのテクノロジーを引き継いだ高速化、低消費電力化、高信頼性、高品質を実現したサーバーをやれると思っている。ただし、ピアなオープン・サーバーだけで戦うのは厳しい。なのでBladeSymphonyはブレードだが、そこにスケーラビリティ、フレキシビリティ、さらにはミドルウエアを入れた仮想化を実現させることにしたのだ。加えて、これまでのブレード・サーバーはフロント系だけに使われていたが、当社はバックヤードやセンターなど、どこでも使えるものを目指している。

 また、オープン系の一番の問題は運用メンテナンスコストの負担にある。ここに工夫を凝らしたBladeSymphonyは海外でも評価されると思っている。

ソフト・サービス事業の行方

---SIの赤字は解消できるのか。

古川 急激なオープン化とテクノロジーの進化にプロジェクト管理力がついていけなかったことが大きな要因だ。だからこの3年間、十分な備えがない中で津波におそわれた。だが、同じような現象は同業他社にも起きている。その中で実は早い段階からこの問題に気がついていたのだが、手を打つのが少し遅かった。(赤字案件が)皆無になるとは言えないが、(様々な手を打ったので)なくなってきた。
 
---目標だった05年度に営業利益率7%(情報通信事業全体)を達成できないようだが。

古川 05年度の見込みは3.4%だが、決して目標を捨てたわけではない。06年度か07年度かはっきりとは言えないが、10%、せめて7%は実現させる。

 そのためには新しい市場を創出していく製品やソリューションを出すことが重要になる。従来の市場を取り合っているだけではだめなので、BladeSymphonyやセキュリティPC、指静脈を提案しているのだ。これからはブロードバンド先進国ならでの課題を解決するものである。こうした市場を創出していかないと、我々の発展はないし、存在意義もなくなる。(敬称略)