舩橋 哲也 NTTコミュニケーションズ ユビキタスサービス部 企画グループ長
加納 貴司 NTTコミュニケーションズ ユビキタスサービス部 企画グループ マーケティングチーム リーダー

図1 複数のアンテナを使って100Mビット/秒超の通信を実現する「MIMO」技術 次世代の無線LAN標準規格「IEEE 802.11n」への採用が有力視されている。
図2 無線LANよりも広域をカバーする「WiMAX」 通信速度は11nより劣るが,半径数k~数十kmをカバーできる。固定通信規格「IEEE 802.16-2004」と,移動通信規格「IEEE 802.16e」の二つが存在する。
無線通信の技術は高速化と広域化の方向に進化しています。その代表例として100Mビット/秒を超えた高速無線LAN規格「IEEE 802.11n」と,半径数k~数十kmの広範囲でブロードバンド通信を可能にする「WiMAX」を取り上げます。

 無線LANは1997年の「IEEE 802.11」登場以来,2Mビット/秒から11Mビット/秒,54Mビット/秒と最大通信速度を高めてきました。そして現在,100Mビット/秒を超える次世代の無線LAN規格が策定中です。IEEE 802委員会の11nタスク・グループ(TGn)が審議を進めており,2007年をメドに「IEEE 802.11n(11n)」と呼ぶ新しい標準規格が誕生する予定です。高速化以外にも,IEEE 802.11a/gとの接続が可能(後方互換性),IEEE 802.11e準拠のQoS機能に対応といった機能が盛り込まれる予定です。

高速化のカギはMIMO技術

 11nへの採用が有力視されている高速化技術では,送信側と受信側それぞれに複数のアンテナを用意して複数のデータを同時にやり取りします。こうした技術を「MIMO」(multi-input multi-output)と呼びます。

 簡単に言うと,複数の通信機器を使って同時に通信するイメージです。例えば54Mビット/秒のIEEE 802.11g対応機器を2組同時に使えば,最大108Mビット/秒の通信が可能です。とはいえ複数の機器が同じ周波数で同時に送信すると,互いに干渉して受信側は正しいデータを受け取れません。異なる周波数を使えばこのような問題は起こりませんが,占有する帯域幅が広くなってしまいます。

 MIMO技術は1台の通信機に複数のアンテナを搭載し,それぞれのアンテナで同じ周波数を利用できるようにします。そのため帯域幅を広げることなく,大幅な高速化を実現可能です。

 具体的には,送信側は送信するデータを複数に分割し,それぞれ別のアンテナから送信します。受信側も複数のアンテナで信号を受信しますが,各アンテナが受信する信号は複数の送信信号が混ざり合った形となります。この混ざり合った信号に次に述べるような演算を施すことで,送信時のデータへと復元します。

 混ざり合った信号の分離には,送信アンテナと受信アンテナの組み合わせごとに電波の伝達特性が異なることを利用します。図1[拡大表示]を例に説明すると,同じアンテナ1から送信された信号でもアンテナAが受信する信号とアンテナBが受信する信号は,電波の電力や位相などが異なります。この伝達特性を数値で示すと,アンテナが受信する信号は送信信号に伝達特性を掛け合わせたものとして表現できます。

 MIMOでは複数のアンテナを送受信に利用するため,図1中に示したような連立方程式ができあがります。これを解くことで,各送信アンテナが送ったデータを復元します。またこの演算により,受信信号の復元時にマルチパス干渉の影響が同時に除去できます。そのため通信速度が安定するメリットもあります。

広域無線通信向け規格「WiMAX」も登場

 無線LAN高速化の一方で,「WiMAX」と呼ばれる,広域化を目指した無線通信規格が登場してきました(図2[拡大表示])。WiMAXは大きく分けて2種類あります。一つは「IEEE 802.16-2004」。これは固定通信のFWA(fixed wireless access)向けです。通信速度は最大75Mビット/秒で,通信範囲は最大で半径数十kmをカバーします。有線のブロードバンド回線が提供されない地域に,無線ブロードバンド・サービスを提供する手段として期待されています。

 もう一つが移動通信向けの「IEEE 802.16e」という規格です。通信速度はIEEE 802.16-2004より落ちますが,ハンドオーバー機能などをサポートします。ノート・パソコンでの対応が検討されています。

 WiMAXの実用化は,韓国や米国が先行しています。このうち韓国は「WiBro」という規格名でIEEE 802.16eの実用化を推進中です。日本では,総務省が無線ブロードバンドの普及推進方策などについて検討する「ワイヤレスブロードバンド推進研究会」を2004年11月から開催しています。この研究会において,WiMAXについての議論を開始しました。2005年11月をメドに報告書を取りまとめ,結果を踏まえたうえで周波数分配などの検討に入る見込みです。

 広域カバーを目指したWiMAXとは逆に,数m程度の距離で数百Mビット/秒の超高速通信を実現する「UWB」(ultra wideband)という規格も検討されています。今後は無線LANを中心に,様々な無線通信を組み合わせて利用することになるでしょう。