モメにモメ続けた総務省の「高速電力線搬送通信に関する研究会」がついに最終局面に入った(参照記事)。

 ここで座長が提案した規制値のベースになるのはノイズの原因となる「コモンモード電流値」である。コモンモード電流の発生原因として,今回,問題となっているのが家庭内の配線の「平衡度」である。平衡度とは,「行き」と「戻り」の信号線の状況かどの程度“同じ状態”かということ。片方だけに途中でスイッチなどが入っていたり,地面などとの位置関係などが違えば,平衡度は小さくなる。平衡度が小さいほど,コモンモード電流が発生しやすい。

 信号線(つまり家庭内の電力線)の平衡度をある値に仮定し,そこで発生するコモンモード電流値を規定するのが今回の座長提案の内容である。その値とは,全家庭の99%が収まる値とした。統計上,求められている数値だという。

 ところで,コモンモード電流の発生原因は電灯線の状況だけでなく,モデムの性能にも依存する。もし,モデムが原因となるコモンモード電流を抑えられれば,電力線が原因で大きなコモンモード電流が発生しても,トータルでの値を小さくできる。家庭の電灯線の状況には,手のつけようがないが,モデム性能の方ならメーカーの技術次第だ。事実,推進派の急先鋒である松下電器産業では,その実現に自信を見せている(参照記事)。

 一方,「反対派」にとっては,コモンモード電流値は直接の興味の対象ではない。コモンモード電流値の規定は,直接,電波の強さを規定するものではないからだ。ある地点での電波の強さは,「電界強度」で表す。

 この電界強度は,電波源から距離が同じなら,送信電力が大きいほど,そしてアンテナの効率が良いほど,数値は大きくなる。確かにコモンモード電流が規定されれば,送信電力もほぼ決まるといえる。だが,問題はアンテナの効率だ。

 波長の1/2や1/4といった長さの電線はアンテナとして効率的に動作する。高速電力線通信で利用しようとしている短波帯(2MHz~30MHz)は波長にして150m~10m。家庭内の電灯線の配線は数m程度,豪邸なら数十mといったところ。短波帯のアンテナとしてちょうど良い長さだ。

 家庭内の配線の長さは,建物ごとにバラバラ。しかも,照明のオン/オフなどによっても配線の長さは変わってしまう。だが,うまくツボにはまれば,特定の周波数の電波を効率的に輻射する可能性がある。平衡度のような統計的なデータもない。

 反対派の主要メンバーである短波放送局,アマチュア無線家,電波天文学者など無線の専門家にとって,許容できるかできないかの判断基準は電界強度である。事実,研究会の場でも電界強度のレベルはどうあるかを主張してきた。いきなり違う土俵での判断が要求された反対派は戸惑いを隠せない。