「人を削減し、少ない予算でやる。要は税金の無駄遣いをしない。これがe-Japanの目指すところ」と、小泉純一郎首相はIT戦略会議で話した。ITを活用し事務処理を効率的に進めることでその目標が達成できる、とITに大いに期待をかけているわけだ。ところが、紺屋の白袴というべきか、肝心の政府のITシステムに大きな無駄の存在が、2004年度末までの「レガシーシステム刷新可能性調査」で判明した。

 中央省庁にコンサルタントなどが入って精査した結果によると、驚くべき数字が並ぶ。削減可能な年間システム運用経費が、現行の運用経費に占める割合、つまり“浪費度”は、財務省の官庁会計事務データ通信システムが72%、労災行政情報システムが60%と続く。話題の社会保険庁システムは32%である。

 「浪費度(無駄遣い率)」が一桁の省庁はないのかと探すと、特許庁の「特許事務システム」が5%だった。年156億円に対して7億7000万円の削減余地がある。調査はIBMビジネス・コンサルティング・サービス(IBCS)が、他の省庁より1年早い03年度に行った。その中で02年度に実施したシステムインテグレーション(SI)の評価は及第点だ。実際のSI費拠出が30.5億円だったのに対して、IBCSが市場価格から試算した29.4億円との削減余地は1.1億円で、浪費度が4%と少ない。1.1億円については「入札にかけることで削減可能」(IBCS)という。ソフト開発の実質開発単価116万5000円/人月についても「一般的な市場価格範囲内で妥当」(同)という評価だった。

 これを受けて、特許庁は04年10月に「システム最適化計画」を発表。現行から20~30%削減可能としたが、さらに精緻な改訂版を近く公表する。政府市場に詳しい情報通は、「現行の40%(約60億円)削減という画期的な達成目標を打ち出し、各省庁の規範となるはず」と話す。現行でも5%という突出して低い浪費度の特許庁が、業務プロセスを見直し・最適化し、その上でシステムを再構築することで現行の4割減達成を目指すのは「当たり前のことだが、他省庁との比較論では大いに評価できる」と先の情報通はみる。

 各省庁は05年度中に36システムについての最適化計画を作り、06年度から業者を選定し、システム構築に入るというのがレガシー刷新のスケジュールだ。特許庁も06年度に業者を選定し、開発に50カ月かけて特許事務システムを刷新する。

 これまでの中央省庁システムは、「ソフト開発、ハード調達、運用管理」の3つが渾然一体で透明性が欠如していた。例えば、ソフト開発ベンダーが運用管理を当然のように手掛けるなど管理が曖昧だ。特許庁は02年度からハード調達をWTOに基づく一般競争入札に移行し、04年には随意契約を脱却するため未償却残高259億円を一括精算。継続を旨とする随意契約からのフリーハンドを確保した。残るは「ソフトの開発をはじめとする運用・保守と管理の明確な分離」だ。

 そこで特許庁のアイデアが光る。欧米ではSIやアウトソーシングの際に、ベンダーと顧客の間に入り、顧客の立場で調整する「PMO(プロジェクト管理オフィス)」という仲介サービス事業が成立している。同庁はこれを「運用管理」で設けることにし、約50に及ぶ全システムの「システム総合運用管理サービス」を担うベンダーを公募した。ベンダー依存から脱却し、運用管理でのリスクを低減。特許庁のITガバナンスの維持強化が狙いだ。同時にオペレーションベンダーも公募中である。

 特許庁はPMOベンダーにSLAに基づく品質維持を要求。100人超を派遣するPMOベンダーは、業務ソフト開発/ハード/オペレーションの3ベンダーに対してSLA維持のために必要な措置を指示する。SLA違反はPMOの責任だ。年間30億円の予算要求をしており、今後の業務プロセス見直しやシステム刷新に大きくかかわるため、おそらく5年はPMO契約が維持される。この画期的な試みは10月に契約が発効する。NTTデータとアクセンチュアが応札した。