イメージや掛け声が先行していた「ユビキタスソリューション」が、いよいよ一般企業に提案できる段階に来た。モノの情報をつかむRFID(無線ICタグ)では、試行錯誤の結果、顧客が今から納得する適用業務が見え始めた。生活者の行動をつかむ非接触型ICカードでは、携帯電話機に搭載するモバイルFeliCa(フェリカ)が、顧客企業に新たなマーケティング手法を提供しようとしている。今からユビキタスを提案できる好機が到来している業種・業務は3つ。(1)オフィスの重要文書管理、(2)小売業向け、(3)製造業向け——の提案だ。物流がこれに続く。 見逃せないのは、需要が生まれてきたユビキタスソリューションが、企業の既存システムと密接に連携し始めたこと。ユビキタスで現場から集めた情報を、POS(販売時点管理)、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)、生産管理などのシステムにどう取り込むか。ユビキタスで開拓する次代のシステム更新商談は、もう時期尚早ではない。
「2004年度の引き合いは60社に上る。前年度に比べ3倍の伸びだ」——。RFID(無線ICタグ)商談の順調な伸びをこう語るのは、CSKのサービス企画・推進課の湯川栄治主査だ。
顧客企業が、RFIDの業務活用を真剣に考え始めたことは、CSKでの事例数が「業務に本格導入した顧客が片手に達する」(湯川主査)ことからも分かる。NECや富士通も、ソリューションの提供実績が5~10社に上るという。
タグを広く外販する日立製作所は「アディダスジャパンやコンバースジャパンへの物流管理システム納入をまとめた伊藤忠商事のように、パートナーの実績が立ち上がってきた」(事業開発部部長兼品質保証グループリーダの芦沢実氏)と、事業の広がりに手応えを感じ始めた。
収益の8割がシステム投資に
ユビキタス商談のうち、もう定型パッケージ化の段階を迎えたのがRFIDによる入退場管理システムだ。例えば、読み出し専用型で「量産時10円台」という低コストが売り物の日立のRFID「ミューチップ」は、9月まで開催された「愛・地球博」で2500万枚の入場券に採用されたほか、日立情報システムズが「即時発行できる入退場カード」に採用し、プリンターやソフトとセットで販売中だ。重要なのは、この入退場管理に続いて、企業の業務システムを巻き込んだユビキタス商談が立ち上がってきたこと。先行企業は「ここで呼び込むIT投資こそ、ユビキタス商談の利益の源泉だ」と口をそろえる。
CSKなどは自社の構築経験から、RFID商談に占めるシステム開発の売上高割合は5割に達すると見積もる。一方、リーダーやタグなどのデバイスは顧客から低価格化の要求が強く、割合は15%に縮小するという。デバイスからシステムまで手掛ける富士通も「サーバーなどを含めシステム投資は全体の8割を占めるだろう。デバイスは収益に貢献しない」(ユビキタスビジネス推進部の吉田正部長)と、ソリューション開発に取り組む重要性を強調する。
製造業など3分野が有望
新たなシステム投資を提案できるユビキタス商材は、RFIDだけではない。生活者の行動を追う非接触ICカードの分野でも、電子決済や乗車券などの応用にとどまらない有望商材が登場した。携帯電話機にFeliCaの機能を搭載した「モバイルFeliCa」だ。ここでも利益の源泉は「POSと連携する新たなシステム構築案件」(NECのFeliCaビジネスソリューションセンターの井手伸博センター長)だ。
このように個別企業への提案が開けたユビキタス提案の分野は3つある。(1)RFIDを使う重要文書管理、(2)モバイルFeliCaによる小売業向けシステム、(3)RFIDを使う製造業向けソリューションだ。
モノの在庫・所在を管理するソリューションは、「宝飾業界など、商品単価が高い業界が有望」(ニッセイコムの情報通信システム第一営業本部の小野稔担当部長)だ。業種を問わずに提案したいなら、重要文書の管理が有望だ。
3番目の製造業は、「引き合いの4割強を占める」(CSKの湯川主査)ほど、RFIDに熱い視線を送る業界である。関係者は「流通業や食品分野などより、RFIDの普及は早い」(日立の芦沢部長)と口をそろえる。