ドラフトワンの製造ライン。大ヒット商品でも欠品や不良在庫が発生しなかった(上)。5月25日に発売したスリムス(右)
●市場の動向に対応しやすく需要予測のブレに備えた
 かつて「ブロイ」「北海道生搾り」といった発泡酒の大型製品を投入しながらも需要予測が外れ、機会損失を発生させていたサッポロビール。これに加え、同社は毎年10億円以上の廃棄ロスにも悩まされていた。

 こうした課題を解決するために、2000年からSCM(サプライチェーン・マネジメント)改革に着手した。情報システムを刷新し、現場の情報を吸い上げやすい体制を築いた。ビール各社ともに、鮮度向上のためにSCM改革を実施している。

 需要予測を月次から週次に切り替えるとともに、判断材料を変えた。最終製品単位から原液ごとの予測に変更。仕込み段階で大まかな需要を予測し、容器に充てんする直前に季節要因や市場動向などを取り入れるように切り替えた。こうした取り組みによって、5年前に比べて不良在庫が100分の1、資材在庫が7分の1、廃棄ロスが10分の1にまで減った。

 発泡酒よりも酒税が安く第3のビールとも呼ばれ、昨年大ヒット商品となったドラフトワン。サッポロビールは当初、年間の販売量を1000万ケースと予測していた。しかし、実需は予測を大きく上回った。発泡酒よりも低価格でありながらビールにはないすっきりとした味がうけて、1815万ケースまで年間販売量が伸びた。

 当初の需要予測が外れたものの、欠品は起こさずに済んだ。同社が2000年から取り組んでいるSCM(サプライチェーン・マネジメント)改革が功を奏したのだ。

販売計画を2度にわたり上方修正

 需要予測を担当するSCM本部サプライチェーンマネジメント部需給グループの河合秀樹マネージャーは、ドラフトワンを発売して、すぐに「最大2000万ケースまで伸びる」と見ていた。この予想には裏付けがある。発売から3週目までの販売量が、2001年に2100万ケースを出荷した発泡酒「北海道生搾り」と同じトレンドを示していたのだ。

 営業部門が毎週示す販売計画よりも、河合マネージャーの予想値のほうが常に多かった。「こんな調子の良いときに品切れしてはまずい。『ここまで販売が伸びますけど原液が足りなくなることはないですか』と、毎週のように製造担当者と打ち合わせた」と振り返る。

 今回の改革では、需要を予測する対象も変えている。従来は、容器に詰めた後の製品ごとに需要を予測していた。1種類のビールでも、容量の違いによって複数の容器があるため、需要予測は複雑になる。これが改革後には、原液単位の予測に変わった。

 原液は多めに作っても、容器に充てんする段階で調整できるので大きなリスクにはならないことも河合マネージャーの判断を後押しした。こうした対策を講じた結果、ドラフトワンでは販売計画を2度にわたって上方修正し、欠品や過剰在庫を起こさなかった。

 ドラフトワンでの成功は、SCM改革を象徴したエピソードである。この改革で業務プロセスを月次から週次に短縮したことに併せて、SCMシステムを刷新。生産計画や販売計画、販売拠点を含めた在庫の情報を一元管理するシステムを構築した。

 改革に着手して5年たった現在、在庫は大きく減った。5年前に比べて、缶などの容器に充てんしたものの出荷できなかった不良在庫が100分の1に、缶や段ボールなどの資材在庫が7分の1、充てんする前の原液のまま廃棄となってしまう廃棄ロスが10分の1にまで減った。