IT産業の潮目が変わった。富士通やNEC,日立製作所など大手コンピュータ・メーカーを中心に市場拡大を続けていくことに限界が出てきた。大手3社のIT事業の成長は止まってしまったし,ハードやソフト・ベンダーから商品を仕入れてシステム構築を請け負う大手ITサービス会社の売り上げ,利益も伸び悩む。縮小均衡のフェーズに入ったように思える。

 事実,この2~3年間,大手メーカーは事業の統廃合を推し進め,少しでも利益を出すことに懸命だった。ITサービス会社は様々なコスト削減などでしのいでいる。「今日,明日のことを考えるのに精一杯」な大手各社の経営者は夢を語ることを忘れてしまったのだろうか。新たなことにチャレンジする姿勢も見られない。

 2005年5月25日,富士通の黒川博昭社長が東京・汐留の本社で05年度の経営方針を発表した。だが,話の中心は不採算プロジェクトの撲滅。営業利益の80%を稼ぎ出すサービス事業の建て直しが再生のカギを握るという。「サーバーなどプラットフォーム事業の再生」を強調した04年度の経営方針とは大きく変わったように見える。コスト増や開発期間の長期など失敗するシステム構築案件が増えたことで,営業利益が期初計画の2000億円から1601億円になってしまったことが背景にある。

 翌月の15日,日立の古川一夫執行役副社長(情報・通信グループ長兼CEO)が情報通信事業の方針説明会を都内のホテルで行ったが,ここでの中心はHDD(ハードディスク装置)事業の再生だった。

 情報通信事業の04年度の営業利益が当初計画より463億円少ない677億円になったのは,富士通同様に大口の不採算案件が発生したことに加えて,HDD事業が5300万ドルの赤字に転落したことが響いた。しかも05年度のHDD事業の売上高は前年度比19%増の50億ドル(約5500億円)を見込むものの,赤字が3億ドル(約330億円)に拡大するという。米IBMから買収して売り上げだけを拡大させたHDD事業を回復させることが当面の課題ということだろう。

 NECは04年度に携帯電話事業の大きな損失に苦しんだ。これを打開するためにソフト子会社の再編を実施し,モバイル系ソフト開発の体制を抜本的に変えることを決断した。金杉明信社長は2月,記者に「まさかあんなに(約200億円の赤字)なるとは思ってもいなかった。携帯電話の3Gは3M(300万),デュアルFOMAは5M(500万)とソフトの開発容量が大きくなり,そこに(NECソフトやNECシステムテクノロジーなどから)約6000人の技術者がシフトしてしまった。

 『景気がいいぞ』『儲かるぞ』となり,モバイルにいけば売り上げも利益も増えると思ったからだ。だが,品質管理や原価計算をマネジメントする仕組みがなかった」と体制不備から赤字を招いたと話した。

 一方,期初計画の売り上げが大きく下がったITサービス会社もある。IBMの各種サーバーなどを販売するニイウスは05年6月期の売上高が横ばいの約800億円となり,期初計画の1000億円を大きく下回った。住商情報システムも05年3月期の売上高は期初計画より120億円少ない705億円に終わった。日立ソフトウェアエンジニアリングや日本電子計算など赤字に転落したITサービス会社も増加した。

 このままIT産業は縮んでしまうのか。そんなはずはないだろう。高い技術力を持ったITベンチャー企業は育ち始めているし,大手各社も変化に対応した成長路線への転換を模索しているだろう。各社がIT事業復活の絵をどう描いているのかをこの連載で探って見る。