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ユーザ・読み手の 心をつかむ マニュアルの書き方 海保 博之/加藤 隆/ 堀 啓造/原田 悦子著 共立出版発行 208ページ 2400円 |
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人を動かす文章づくり 心理学からのアプローチ 山本 博樹/海保 博之著 福村出版発行 176ページ 1600円 |
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考える技術・書く技術 問題解決力を伸ばす ピラミッド原則 バーバラ・ミント著 グロービス・マネジメント・インスティテュート監修 山崎 康司訳 ダイヤモンド社発行 304ページ 2800円 |
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論文の書き方マニュアル ステップ式リサーチ戦略のすすめ 花井 等/若松 篤著 有斐閣発行 220ページ 1600円 |
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テクニカルライティング試験ガイドブック テクニカルコミュニケーター協会発行 260ページ 3800円 |
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説得できる文章・表現200の鉄則 永山 嘉昭/雨宮 拓/黒田 聡著 日経BP社発行 270ページ 1600円 |
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ISO 9001 品質文書の簡素化の実現 文書作成を効率化する技法公開 須藤 剛一著 日科技連出版社発行 224ページ 2800円 |
エンジニアに限らず一般のビジネスパーソンであっても,相手に確実に伝わる文章表現を身に付けている人は少ない。こうした状況では,逆に「分かりやすい文章を書ける」ことは,他のエンジニアと差を付けるための大きな武器になり得る。
文章を書く能力は特殊な才能でも,生まれ持ったセンスに大きく左右されるものでもない。実際,マニュアルや取扱説明書用の文章を書くプロである「テクニカル・ライター」は,分かりやすい文章を書くための訓練を受けることで,文章のスキルを身に付けている。ITエンジニアも,ポイントを掴み意識的に訓練すれば,必ず分かりやすい文章を書くことができるようになる。提案書やユーザー向けの説明書が分かりやすくなれば,顧客満足度も向上できる。そこで今回は,技術文書を中心に,分かりやすい文章を書くスキルを学べる7冊を紹介しよう。
読み手を理解しながら書く
「自分の文章のどこが良くないのか分からない…」という人がいる。文章を書くことに苦手意識はなく,情報の内容も理解して書いているのに,読み手からは「分かりづらい」と言われるケースだ。これは,自分と読み手の知識,理解度にギャップがあることが一因である。
一般に情報の送り手は,自分が伝えたい情報に高い優先順位を付けて書く傾向がある。例えば新製品を開発したエンジニア自身がマニュアルを書く場合,注力した新技術に関する機能について特に説明したくなるに違いない。しかし利用者にとっては,全体について理解しないままに新技術を説明されても混乱するばかりである。結果的に,「マニュアルが分からない」,「読みたくない!」というユーザーの声につながる。こうしたことを起こさないためには,「読み手は文章をどのように読み,新しい情報をどのように理解するのか」を知ることが極めて重要である。
「読み手はどのように読み,どのように理解するのか」という問題は,「認知心理学」(人間の認識プロセスを研究する学問)とも深くかかわってくる。「ユーザ・読み手の心をつかむマニュアルの書き方」は,この認知心理学をベースに,「テクニカル・ライティング」の基本を解説した本だ。
「読み手は関連知識を持たないと想定せよ」,「専門用語の使い方に注意せよ」といった具体的な見出しが並んでおり,しかも豊富なサンプルが掲載されているので理解しやすく,すぐに応用できる。15年以上前の1987年に出版された書籍だが,今でも新人テクニカル・ライターの「教科書」として読み続けられており,筆者も部下や後輩,学生を指導する際の参考書として役立てている。
認知心理学のアプローチを取り入れた書籍としては「人を動かす文章づくり」も薦められる。本書は,文章の書き方を物語仕立てで分かりやすく解説しており,悪文を分かりやすい文章に書き換える演習問題も効果的だ。ただ,とっつきやすさを狙ったのか,実用的な内容にややそぐわない表紙なのが残念である。
文章の構成テクニックを知る
理解しやすい文書を作成するためには,トピックスをどのように構成するのかも大きなポイントとなる。文章の構成の仕方がまずいと,1つ1つのトピックスの内容は良くても全体として相手に読みにくい印象を与えてしまう。また,少し長い文章を書く際には,最初にしっかりとした構成を考えなくては,効率よく書き進めることができない。
文書の構造をどう組み立てたらよいのかを学べる指南書としては,ロジカルに考えて書くための技術を解説した「考える技術・書く技術」が良い。ピラミッド型の構造を意識して構成を組み立てる「ピラミッド・プリンシプル」という手法をベースに,論理構造の組み立て方や論理構造を文章表現に反映させる技術を説明しており,技術文書を論理的に組み立てるための思考が身に付く。
本書は各国で翻訳されて版を重ねており,日本のテクニカル・ライターにもよく読まれている。ただ,翻訳書なのでやや分かりにくい表現があるのが難点だ。英文を読むのが苦にならなければ,原書で読むのも手である。
「論文の書き方マニュアル」も,収集した情報をどのように構成すればよいのかを,分かりやすく解説した本だ。予備作業,リサーチ,執筆・仕上げの3ステップで論文をまとめていく方法が示されており,長文の提案書や報告書を作成しなければならない時に役立つだろう。
正しい文章技術を身に付ける
読み手を理解するアプローチや,情報の構成方法が理解できたら,正しい文章を書くための具体的な練習を積み重ねよう。速く走るためには正しいフォームを身に付けることが重要なように,技術文書を書く際も,正しい文章を書くための技術・知識は必須である。
日本語の文法や文章の組み立て方など,正しい文章を書くためのスキルを学ぶには,マニュアルの制作などにかかわる人達のための資格である「テクニカルコミュニケーション技術検定試験」の受験対策本である「テクニカルライティング試験ガイドブック」が良い。これを読み,演習問題に取り組めば,一通りの基本的なスキルが身に付く。
文章のスキルを仕事の中ですぐに活かしたいなら,「説得できる文章表現200の鉄則」に一通り目を通してみよう。簡潔に用件を伝えるためのルールと具体例が1ページ1項目で示されているので,企画書や提案書を分かりやすくまとめるための文章作成のポイントが,手っ取り早く理解できるだろう。
文章の書き方全般を取り上げたものではないが,「ISO9001品質文書の簡潔化の実現 文書作成を効率化する技法公開」も役に立つ。本書は,品質管理の国際規格である「ISO9001」の認証を受けるための文書作成法を主に解説したものだが,簡潔で分かりやすい文書を作成するコツを,具体的なサンプルから学ぶことができる。
高橋 慈子(たかはし しげこ)1988年,テクニカル・ライティングの専門会社ハーティネスを設立。ハードやソフトの取扱説明書,解説書などの企画,制作に携わる。立教大学,大妻女子大学,跡見学園女子大学で,非常勤講師としてコンピュータ・リテラシーやテクニカル・ライティングを教えている |