「これが効くんです」。そう言って鞄の中からブルドーザーのミニカーを取り出したのはクオリカの河田博司だ。「顧客と会ったときに、これを机の上に置くとグッと距離が縮まる」と笑顔を見せる。クオリカは、元はコマツの情報システム子会社。今も、コマツの出資比率は20%を占める。営業先には自動車業界が多いだけに、同社ならではの営業ツールが、ことさら威力を発揮する。

 こう書くと、河田が同社の生え抜きのように聞こえるが、実はクオリカに入社したのは今年5月と、まだ新参者だ。営業としての転機は、大手ユーザー系SIerに在職中の99年のこと。当時の上司から、保守サービスの営業部隊を作れと言われたのだが、河田にとっては望まない仕事だった。

 そんなときに出会ったのが、フランクリン・コヴィーの「7つの習慣」という本のセミナーだ。「7つの習慣」は、原則に基づく価値観に忠実に生きることを説く。セミナーへの参加は、保守の営業に真摯に取り組むきっかけになった。河田は「言ったこととやることが同じだからこそ信頼を得られる。その考え方が営業の仕事でも生きる」と話す。そして、99年に7億円に過ぎなかった保守の売り上げを、2003年には100億円にまで成長させた。

 クオリカに入社した今は、営業部を引っ張るリーダーとしての仕事にも余念がない。つい先日は、できる営業マンのとるべき行動を34項目のリストにした。その内容は「受注したら菓子折を持って挨拶に行く」、「顧客に対して説得力がある事例を語れるか」など。河田は「特別なことは何1つない。やるべきことを確実にこなすことが大切」と話す。

 こうした積み重ねが、効果となって表れ始めた。最近、大手自動車メーカーからプライムで大型案件を受注したのはその典型。「営業全体でこの成功を共有し、今後につなげていきたい」と河田。今年度の事業部の売上目標は40億円。それをクリアするのはもちろん、「数年で100億円に持っていきたい」と、次なる目標を熱く語ってくれた。

=文中敬称略

河田 博司(かわだ ひろし)氏
クオリカ
インダストリアルビジネス事業部
副事業部長 営業部長
1960年生まれ、岡山県出身。立教大学経済学部を卒業後、大手独立系ソフトハウス、大手ユーザー系システムインテグレータを経て、2005年5月にクオリカに入社、現職に就く。製造業、特に自動車業界向けに、同社の得意分野である生産管理システムを中心に営業中。趣味は読書で、東京・日本橋の自宅書斎の本棚に並ぶ蔵書はおよそ2000冊。数カ月に1度、暇を見つけてはジャンルごとに本を並べ替えるのが楽しみ。