北野譲治アタボック社長
北野譲治アタボック社長
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 アタボックは,セキュリティ関連のASP(application service provider)サービスを提供する企業。専用ソフトをインストールした端末間で,安全にデータをやり取りできるサービスを提供している。本社は米国のボストンだが,創業者は日本人で三菱電機出身の小畑浩志氏(現・米国本社CEO)。今回は日本法人の北野譲治社長に,同社のサービスの強みなどを聞いた。

(聞き手は加藤 慶信=日経コミュニケーション

−−ASPサービス「Secure File Transfer Service」とは,どういったサービスか。

 一言で表現すれば,「企業のLANとLANをセキュアにつなぐサービス」だ。大容量ファイルや顧客情報,受発注データなどを,安価で高速なブロードバンドを使って安全にやり取りできる。

 国内では既に3000社を超える企業で導入されている。例えば製造業ではCAD(コンピュータを使った設計)データをやり取りするため,導入する企業が多い。CADデータは数百M~数Gバイトと大容量。取引先とのやり取りにはCD-ROMやFTP(file transfer protocol)サーバーを使うことが多いが,CD-ROMではデータのやり取りに時間がかかってしまう。FTPならブロードバンドを使って瞬時にやり取りできるが,安全性の確保が難しい。データ転送の途中で回線が切れれば,再度始めから転送し直す必要もある。Secure File Transfer Serviceなら,断線してもダウンロード途中から再開できる。

 生命保険会社では,加入者が勤務する契約団体の企業と給与引き落とし情報をやり取りする際に使われている。こうした引き落とし情報は,これまでフロッピー・ディスクやCD-ROMなどのメディアを使って送付していた。しかし,送付先は数百~数千社にも上り,手間もコストもかかる。
 これをネットワークで送信できれば,コスト削減や迅速なやり取りを実現できる。ところが,引き落とし情報は口座番号など個人情報の塊。オンラインでやり取りするには,信頼できるインフラが不可欠。専用線を使う方法もあるが,数百~数千社のすべてをつなぐことは現実的でない。そこで安価なブロードバンドが使えるSecure File Transfer Serviceが採用されている。

−−ユーザーは,どうやってデータをやり取りするのか。

 ユーザーの使い勝手は,電子メールの送受信と同じ。電子メールの添付ファイルと同じ要領でデータを貼り付けて送信する。また,既存の基幹系システムと連携させられる自動化モジュールも用意している。先に挙げた保険会社向けの事例では,基幹系システム側で引き落とし情報を生成した時点で,自動的に該当する取引先企業のサーバーに送信する機能を作り込んだ。

−−受発注データなどのやり取りにも利用できるのか。

 現在400社以上が,そうした用途で利用している。企業間でデータを交換するインタフェース部分も,これまでだと基幹系システムを手がけている大手のSIベンダーが,時間とコストをかけて大規模にシステムを構築していた。

 弊社の自動化モジュールを使えば,EDI(electric data interchange)へ簡単に組み込める。利用料も,端末1台当たり月5000円からの基本料と,転送した月間のデータ量に応じた月1万円(最大1Gバイト)からの料金がかかるだけだ。

 もう一つ,企業間取引のデータ交換は今,Web化の方向に向かっている。ところが,Webを使った方法は,ポータルに表示されたボタンをクリックしたタイミングでしかデータをダウンロードできない。当社のサービスなら,発注した時点で即座にデータを送信できるメリットがある。

−−セキュリティの不安もあるが。

 その点は,強固にしている。

 まず,端末に搭載する専用ソフトには,電子証明書を搭載している。サーバーは,データを中継する前に電子証明書を確認することで正規の端末であることを確認する。実際にデータ転送が始まると,専用ソフト側で256ビット長の暗号鍵を使ってデータを暗号化する。また,経路途中でデータが改ざんされないように暗号化技術「SHA-1」(secure hash algorithm)でチェックしている。相手先の端末まで正常に届いたことを知らせる送達確認の機能も持っている。さらに,端末間の通信は必ず弊社のサーバーを経由するため,すべての通信ログを記録。これらを永久に保管している。

−−用途の広がりは期待できそうか。

 企業がオープンな環境で他社とつなぐ動きが出てくると,用途にも広がりが出てくると思う。例えば企業が共同でプロジェクトを立ち上げるなど,協業関係を推し進めたい場合。各社から数人ずつが参加するプロジェクトを立ち上げれば,プロジェクトが稼働している一定期間だけ利用できるインフラが必要になるだろう。

 Secure File Transfer Serviceを使うことで,既に各社が構築しているインフラを変えることなく,プロジェクトの担当者だけをつなぐ仮想的なLANを構築できる。実際,そうした狙いから4カ国共同の医療研究プロジェクトが,当社のサービスを導入している。

 さらに,BtoC,CtoCにも導入を広げたい。今考えられるのは,デジタル・カメラで記録した大容量の撮影データを,店舗と顧客で交換する用途。ほかにも,DRM(digital rights management)技術を組み込めば,音楽や動画配信サービスにも応用できる。