米シスコシステムズのヒンドル・マネージャー
米シスコシステムズのヒンドル・マネージャー
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 次世代IPネットワークのアーキテクチャとして発表された,米シスコシステムズの「IP NGN」。これを実現する大型ルーター「CRS-1」は,固定通信事業者だけでなく携帯事業者にも予想外の売れ行きを見せているという。モバイル・キャリア向けの販売チームを率いるジョナサン・ヒンドル マネージャーに,携帯事業者向けの販売戦略と実績について聞いた。(聞き手は宗像 誠之=日経コミュニケーション

--携帯事業者向けの製品について,シスコの取り組みを教えてほしい。

 シスコが本格的に携帯事業者向けの市場に参入したのは約5年前だ。最近は,固定系と移動系のサービスの融合が進み始めるなど,携帯事業者はあらゆる分野での急激な変化への対応を迫られている。

 様々な端末の機能が収束しているのがその一例。携帯電話がパソコンのような機能を持ち,テレビ放送のストリーミングを受信できるようになっている。逆にパソコンをソフトフォンとして使えたり,IP電話ならデータのやり取りでアプリケーション連携もできる。音声,ビデオ,データが多様なデバイスでやりとりされる状況だ。シスコではこれを「トリプル・プレイ・オン・ザ・ムーブ(移動中のトリプル・プレイ)」と呼んでいる。

 こうした中では,多様なアプリケーションを吸収できるネットワークを構築しておき,すぐに収益機会を得られるようにしておくことが重要。IP技術を生かして投資や運用効率を高めるようにするため,シスコとしては,そのソリューションに「IP NGN」と呼ぶ次世代ネットワーク・アーキテクチャを用意している。これは,固定通信事業者だけでなく,携帯事業者にも対応するものだ。

--固定通信の分野では,電話網のIP化を宣言する通信事業者が増えてきた。

  近年,ネットワークのIP化は多くの通信事業者にとって懸念材料だった。しかし,IP NGNのアークテクチャは,技術面だけでなく財務面でも通信事業者のニーズに対応するもの。携帯事業者も固定系と同様,設備投資や運用コストの削減が大きな課題。IPの活用がそれらの改善につながるため,踏み切る携帯事業者は今後増えてくる。

 実際,既に多くの携帯事業者が,サービスごとに構築していたネットワークを共通のプラットフォームに収束させてIP化し始めている。これまではフレーム・リレーやATM(非同期転送モード),イーサネットなどのネットワークで携帯電話のトラフィックを運んでいた。今はすべてIPベースのMPLS(multiprotocol label switching)網上で携帯電話のトラフィック伝送が可能になっている。

--携帯事業者のネットワークのIP化を後押ししているのは財務的な理由が第一なのか。

 それだけではなく,携帯電話によるトラフィック内容の急激な変化も,IP化を加速させている大きな要因だ。従来は音声が主体だった携帯電話のトラフィックに,データや映像も混在するようになり,大容量化しているからだ。

 例えば,シスコのCRS-1は大容量の通信事業者向けのルーティング・プラットフォーム。我々が所属する携帯事業者向けの販売チームでさえ,CRS-1は今後2~3年で1~2台販売できればよいだろうと,当初は考えていた。固定通信事業者にくらべると,携帯事業者は比較的少ない帯域をオペレーションしていると従来は考えられていたからだ。

 しかし発売から1年たってみると,携帯事業者向けに既に30台以上もCRS-1 の販売実績ができた。これは予想外。モバイル分野でのトラフィック量が非常に増えているということを反映している。

--シスコのソリューションを使った携帯事業者の先進的なサービスはどのようなものがあるのか。

 スイスの携帯事業者スイスコムや,米スプリントのサービスなどが好例だ。
 
 スイスコムの「モバイル・アンリミテッド」というサービスは,ノート・パソコンと専用ソフトウエアを使い,携帯電話や無線LANでシームレスなデータ通信を可能にするサービスだ。ユーザーが接続する場所で,最も高速に通信できる手段をソフトウエアが自動的に選択する。通信中の切り替えも可能だ。シスコのモバイルIPの技術を使って実現している。

 米スプリントは,「プッシュ・ツー・トーク(PTT)」を提供している。これは,トランシーバのようにユーザーがボタンを押すことで音声を交互にやり取りできるサービスだ。スプリントが採用しているのは,シスコのプラットフォーム。スプリントのPTTは,第3世代携帯電話に関する標準化団体が標準化した「IMS(IP multimedia subsystem)」を使ったサービスの最初の展開事例だ。IMSの主な構成要素はIP NGNで実現されている。