ニューヨーク市の警察は,地下鉄,バス,通勤列車,フェリーの乗客から対象者を無作為に選んで手荷物検査を始める。ほかの市もこの動きに追従する。

 検査対象者の選択を無作為に行うのと,何らかの基準を設けて行う(プロファイリング)のでは,無作為な方がセキュリティ対策としては効果的だ。しかし,そこには自由を侵すという大きなトレードオフが存在する。しかも,その見返りとなるほど大きなセキュリティ向上は得られないだろう。検査されるのが嫌なら地下鉄の駅を避ければよい。

 「さあ,これが君の運ぶ爆弾だ。もしも手荷物検査の対象に選ばれたら,引き返して来い。そしてほかの入り口に回るか,タクシーで次の駅に行け」

 (本当のところ,私はこの話をニュースで目にしただけで,手荷物検査を拒否しようとした人から聞いたわけではない)

 さらに,対象者の選択が厳密な意味で無作為になることはないと思う。警察はプロファイルに従った選択を行うものなので,地下鉄での検査も同じことになるだろう。

 これは「映画のストーリーにあるような脅威」であり,「公報目的のセキュリティ・システム」でもある。金の無駄遣いだし,我々の自由を大きく制限し,セキュリティ向上にもつながらない。

 結論:私は「批判をやめて何をすべきか話そう」という立場で見解を述べるようにしている。私の答えはいつも同じだ。テロ対策の効果が最も高くなるのは,テロリストの計画に勝手な前提を設けないときだ。地下鉄の手荷物検査などやめて,1)テロリストがどんな計画を立てていても活動を阻止できるような諜報活動と,2)どんなテロ計画であっても攻撃の影響を小さくできるような緊急対応---という2つの対策に多くの予算をかけよう。特定の攻撃目標や攻撃方法だけを想定したセキュリティ対策や,テロリストが計画を少し変更すれば回避できるようなセキュリティ対策,さらに数人のテロリストを捜すために市民全員を検査する対策などは,ほとんど導入する価値がない。

http://www.nytimes.com/2005/07/21/nyregion/...
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/...

ニューヨークの地下鉄で手荷物検査を拒否するための市民向けガイド:
http://www.flexyourrights.org/subway/

Copyright (c) 2005 by Bruce Schneier.


◆オリジナル記事「Searching Bags in Subways」
「CRYPTO-GRAM August 15, 2005」
「CRYPTO-GRAM August 15, 2005」日本語訳ページ
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◆この記事は,Bruce Schneier氏の許可を得て,同氏が執筆および発行するフリーのニュース・レター「CRYPTO-GRAM」の記事を抜粋して日本語化したものです。
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◆Bruce Schneier氏は米Counterpane Internet Securityの創業者およびCTO(最高技術責任者)です。Counterpane Internet Securityはセキュリティ監視の専業ベンダーであり,国内ではインテックと提携し,監視サービス「EINS/MSS+」を提供しています。