日本アイ・ビー・エム株式会社
システム製品事業
ソリューション企画 部長
猿渡 光司 氏

 ソーシャル・ネットワークのつぶやきから株価の変動を予測--。そんな取り組みが始まっている。ある証券株式会社の「ソーシャルメディア・センター」だ。数十にのぼる銘柄を対象に関連するキーワードを約4万強に絞り込み、Twitter上でのつぶやきからそのキーワードを収集し、株価との相関関係を分析する。株価の予測は専門家でも難しいが、同社の取り組みは“皆が言うことはおおむね正しい”という法則を活用したものだ。

 今、こうした最先端のテクノロジーをビジネスに活用する企業が市場で競争力を持ち始めている。日本IBMの猿渡光司氏は、「データをうまく活用している企業が成長しているのは明らかです。IBMが行った世界のCIOへの調査(IBM CIO Study)でも、83%のCIOが『今後3年から5年で競争力を強化するには、ビジネス・インテリジェンスと分析が最も重要』と回答しています」と指摘する。

 こうした傾向は業種に関係なく広がり、具体的な事例も増えている。(1)衝突時の衝撃をコンピュータ上でシミュレーション。開発期間とコストを圧縮し、市場に早期に投入することで売上の拡大と高収益を確保する自動車メーカー。(2)コンピュータ・リソースを効率的に使うことにより、並行して進められる新薬の研究開発のスピードアップを図り、早期の市場投入で競争優位を実現した製薬会社。こうした従来の領域に加えて、(3)市場リスクや信用リスクのリアルタイムな分析を通して変化を正確に予測。どこよりも早く効果的な投資決定を実行することによって他社よりも高いパフォーマンスを得ている金融機関。(4)POSデータと顧客情報を密接に関係付けるとともに、ソーシャル・メディアのデータなどの外部からのデータを取り込んで分析し、顧客との関係構築を強化し売上を拡大する大手小売業などだ。

 そこでは、今まで科学技術計算の分野で磨かれてきた大量の計算処理に対応したスーパーコンピュータを用いた手法が取り込まれている。ロケット軌道を計算するためのコンピュータがビジネスで使われるようになり、今度は科学研究の領域で培われた技術とアプリケーションがビジネスそのものを高度化しつつある。企業の内外に存在するさまざまなデータから、より大量のデータを、より短時間で計算、シミュレーション、分析し、結果から瞬時に洞察を得てビジネスに活用する。今まで部門や個々のアプリケーションで分析されていたデータをより包括的に、各々を結びつけることによってまったく新しい洞察を生み出す。しかも専用システム導入の投資を抑え、今あるリソースを最大限に活用し、専門的なスキルを軽減し、高パフォーマンスと経済性を両立させる。これが、テクニカル・コンピューティングの世界だ。

 では、なぜビジネスを変えるのに「科学の領域で培われた技術」が使われるようになったのか。その背景には、情報爆発と言われるビッグデータの活用と、複雑に入り組んだITインフラの活用という2つのクリアすべきテーマの存在があった。

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