洗剤などの容器を開発するライオンの包装技術研究所。10数年前は試作品による検証は行っておらず、「2000年ごろから試作品による評価が始まった」(ライオン研究開発本部包装技術研究所副主席研究員の中川敦仁氏)。動向分析でも紹介した通り、試作の数は年々増加している。そんな同社が、どう試作を活用して製品力や開発力を向上させているかを見てみよう。

一昔前は木型1つ

 ライオンでは従来、「試作品といえば、製造メーカーに渡す木型くらいだった」(中川氏)。容器の製造は専門メーカーに依頼しており、設計情報としてCADデータと2D図面の他、参照用の木型を作製して渡していた。これらを使って先方で正式な図面を起こし、ライオン側で承認するというプロセスだ。要するに、試作品と言っても設計案の検証ではなく情報伝達を目的としたものだった。

 製品の評価は基本的に全てデジタルデータ上で行っていた。ただし、データで評価できるのは強度や内容量といった、形状と物性などから計算できるもの。最終的に木型を作製するので外観形状は実物として確認できるが、木型の重さやさわり心地などは製品と異なるし、この段階で問題が見つかっても大幅な修正はできなかった。

図1●ケミカルウッドを切削加工した試作品
外観形状の検証で使う。中空構造ではないため重さや重心位置などが異なるが、コストも安く、速く手に入れられる。
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 このようなプロセスに変化が生じて開発段階での試作を開始したのが2000年ごろのことである。まず導入したのが、ローランド ディー.ジー.の切削加工機「MODELA MDX」とC&GシステムズのCAMソフト「Craft MILL」だ。これらを利用し、ケミカルウッド(ポリウレタン)を切削加工することによる試作を開始した(図1)。

  「当時のCAMソフトはどれも“プロ仕様”で、開発現場に導入するのは難しかった。しかし、Craft MILLの操作は非常に簡単で、順番にボタンを押すだけだ加工できた」(同氏)と、まずまずの使い勝手だったという。これによってライオンは、試作品を用いた設計検証を積極的に進めようとした。

 しかし、切削加工による試作品は木型と同じく、外観形状しか評価できない。手に持つことは可能だが、重さや重心位置も異なるため製品との感触は異なる。特にボトル部のより踏み込んだ設計検討に用いるには、やはり製品と同じ中空の試作品が必要だ。

図2●切削加工品を原型に、シート材を成形した中空の試作品
製品に近い重さや弾力を再現できるが、液漏れしてしまうことが難点。
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 そこで取り組んだのが、切削加工の試作品を原型としてシート材を成形することだ。表裏2枚を成形し、2つを合わせてから中に液体の接着剤を流し込み、接着剤がある程度硬化するまで回転し続ける。これによって2つのシートを接合し、中空の試作品を手に入れた(図2)。

 シート材を成形した中空の試作品は、切削品よりも製品に近い重さや、持った際の弾力などを表現できた。ただし、2枚のシートを内面側から接着剤で接合しただけなので水密性を確保できず、「液漏れしてしまう」(同氏)弱点があった。

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