ネットワークの構成や機能をソフトウエアで制御する仕組み「SDN」の中核となるSDNコントローラーの“本命”がオープンソースとして公開される。米Cisco Systemsや米IBMなど計29社が共同開発している「OpenDaylight」だ。ベンダー独自仕様のSDNコントローラーが抱える課題を解決する。

 主要なITべンダーが共同で進める「OpenDaylightプロジェクト」は、SDNコントローラー「OpenDaylight」をこの2月にリリースする見込みだ。オープンソースソフトウエア(OSS)として公開する。

 これを受けベンダー各社は、OpenDaylightを各社の機器に搭載して提供していく。OpenDaylightを搭載する機器が普及すれば、ITエンジニアは、SDNに対応したアプリケーションを開発しやすくなる。

マルチベンダー環境の課題を解決

 SDNコントローラーは、Linuxサーバーで動作するソフトウエアだ。このソフトは二つの機能を持つ。一つは、ネットワークを構成するLANスイッチやルーター、仮想スイッチといった各種ネットワーク機器に対し、経路や帯域、セキュリティ、負荷分散などを制御する機能である。もう一つは、外部のアプリケーションと連携する機能。これら二つの機能で、アプリケーションからのネットワーク環境の制御を可能にする。

 制御の一例を、テレビ会議システムで見てみよう。テレビ会議システムの管理用アプリケーションには、SDNコントローラーに対して「音声と映像の品質を高く保つようにリクエスト」する機能を実装しておく(図1の左)。リクエストを受け取ったSDNコントローラーは、配下のネットワーク機器の設定を変更し、テレビ会議のデータを優先して通信させる。このようにSDNコントローラーとの連携機能をテレビ会議システムに実装すれば、映像や音声の品質が安定したテレビ会議システムを開発できる。

図1●現状のSDNコントローラーは異なるベンダー製品の間で連携できない
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 ただし現状では課題がある。こうしたシステムはSDNコントローラーが同一のベンダー製品で構築されている必要がある。SDNコントローラーの仕様がベンダーごとに異なるためだ。A社とB社の製品が混在するネットワーク環境では、1個の管理用アプリケーションで両方を同時に制御できない(図1の右)。

 この課題を解決するためにスタートしたのがOpenDaylightプロジェクトだ。マルチベンダーのネットワーク環境でも1個のアプリケーションで制御できるように、SDNコントローラーの共通化に取り組んでいる。

 OpenDaylightの仕様は大きく三つに分かれる。先ほど挙げたテレビ会議システムの例でみると、(1)管理用アプリケーションのリクエストを受け取る「ノースバウンドAPI」、(2)受け取ったリクエストに応じて経路や帯域などの制御を決定する「コントローラープラットフォーム」、(3)各種ネットワーク機器に対して制御を実行する「サウスバウンドAPI」である(図2)。ITエンジニアはOpenDaylightの仕様に準拠したアプリケーションを開発すれば、OpenDaylightのSDNコントローラー1台でマルチベンダーのネットワーク環境を制御できるようになる。OpenDaylightのSDNコントローラーへの機能追加も可能だ。

図2●OpenDaylightが策定を進めている仕様
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業界標準のSDNコントローラーに

 OpenDaylightでは、開発に参加するITベンダーが自社開発の仕様を公開して共通化を図っている。NECも自社開発の仮想ネットワーク技術「Virtual Tenant Network」(VTN)を公開した(表1)。

表1●OpenDaylightの主なプロジェクトと活動内容
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 これらITベンダーの独自仕様を共通化する一方で、別の団体が共通化している仕様も取り込んでいく。SDNに対応したプロトコル「OpenFlow」や、OpenFlowを策定した業界団体であるONF(Open Networking Foundation)が策定中の「ONF版ノースバウンドAPI」などだ。

 OSSのSDNコントローラーにはOpenDaylight以外にも「NOX」「Floodlight」「OpenContrail」などがある。OpenDaylightが他のOSSと異なっているのは、米Cisco Systems、米Hewlett-Packard、米Juniper Networks、NECなどネットワーク機器の主要ベンダー、米IBMや米Red Hat、米VMwareといった大手サーバーベンダーやソフトウエアベンダーなど計29社が参加していることだ。

 同プロジェクトにかかわっているNECの工藤雅司氏(ITプラットフォーム事業部 シニアマネージャー)は、「主要なITベンダーが共同開発しているからこそ、OpenDaylightは業界標準のSDNコントローラーになる。OSSによってOpenDaylightを使ったシステム開発や検証を後押しし、SDNの普及を加速させる」と話す。