本連載では毎回、IT市場で話題の製品やサービス、企業を取り上げ、「ユーザー企業は、ベンダーとチャネルをどう見極めるべきか?」という観点から解説する。第17回目となる今回はSAPジャパンを取り上げる。

 筆者は1990年代にSAPのヴァルドルフ本社を訪れたことがある。ドイツ郊外独特の黒い森の中に静かにたたずむ同社の厳かな雰囲気は、グローバルで圧倒的なシェアを誇るERPパッケージベンダーの本社とはとても思えなかった。むしろ、じっくりと時間をかけて基礎研究を行う公的な研究所のようだった。ドイツ特有の手厚いホスピタリティも印象に残っている。

 それから20年以上が経過した現在も同社のブランドは減ずることなく、むしろERPのデファクトスタンダードの地位をさらに確実なものにしている。日本市場でも確固とした地位を築き、SMBにおいても十分に競合と伍していけるようになった。そんなSAPの強さの秘訣に迫りたい。

日本のSMB市場で長年苦戦

 エンタープライズ市場において、SAPのERPパッケージ「SAP R/3」がデファクトスタンダードであるということに異論を差し挟むものは少ないだろう。とりわけグローバル企業においては、多言語、多通貨対応の基幹業務モジュール群を統合したパッケージとして広く活用されている。長期にわたってこの状況を維持する同社の強みは揺るぎないものにみえる。

 SAPのメインターゲットはもともと、海外進出企業、大企業といった資金力のある企業だった。そのような企業の情報システム部門にはたいてい、ERPシステムを運用できる技術者がおり、同社のパッケージの認知度も高い。そこで同社は大企業に狙いを定め、徹底的に営業開拓した。さらに、大企業の子会社にも提案を展開することで、SMB市場でのシェアも自然と高まった。

 日本国内でも、大企業向けを中心とするERP市場でのSAPの優位に疑いはないだろう。しかし大企業向けに注力し過ぎたためか、オフコンユーザーを中心とする日本のSMB(中小中堅企業)市場へのERPの浸透は、思うように進まなかった。日本のSMB市場は、長らく個別の業務パッケージとカスタム開発のシステムに占められ、同社は苦戦を強いられた。

 転機が訪れたのはオープン化の機運が高まった2000年以降だ。オフコンなどのカスタム開発の業務システムからパッケージソフトへの移行が進み、国産ベンダーも相次いでERPパッケージを投入してきたことも手伝って、SAPもようやく、国内のSMB市場への本格展開をようやく開始した。

 この頃の展開には2つのポイントがあった。1つはSAPによるSMB市場専用の業務パッケージSAP Business Oneの投入と販売店を介した間接販売への取り組みである。日本のSMB市場の特徴であるオフコンの販売戦略を踏襲して日本的なやり方を取り入れたことが奏功した。

 もう1つは、当時の競合である富士通、NEC、オービック、住商情報システム(現SCSK)、NTTデータなどの存在だ。興味深いのは、それらの競合のほとんどは、大企業・グローバル企業向け商材であるSAP R3のSIも手がけていたことだ。つまり自社製のERPパッケージを売りつつも、SAP R3も提案しなければならない立場にあった。エンタープライズ市場におけるSAPの優位性を認めざるを得なかった競合ベンダーは、ある種のハンディを負っていたとも言える。

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