先日も東京ビックサイトで大規模なIT系展示会がありました。展示会の目的を名刺獲得に絞り込めば、5倍の成果を生み出すことができる。この連載を通じて、私が一貫してお伝えしてきた話です。あなたの会社の実績はどうでしたか?

 さて、展示会シーズンが終わりを告げると、フォローフェーズに入ります。

 展示会の成果指標の一つとして、名刺獲得枚数は分かりやすいものです。名刺さえ確保できれば、全件フォローで商談につながるはずだ……。果たして本当にそうでしょうか?

 名刺獲得は非常に重要です。私自身もその1点にこだわってお手伝いをしてきました。しかし、その集まった名刺は本当に価値あるものなのでしょうか。

 集めた名刺の有効性。それは“お礼メール”と称した展示会後の1~2週間後に送られるメールDMの反響率で明確になります。メールDMの目的が、資料請求にしても、次のプライベートセミナーへの誘導にしても、サンプル品の請求にしても、ファーストコンタクトでどれだけの良い反響があるのか。それが名刺の有効性を測るポイントです。あなたの会社のお礼メール兼DMの反響効果はいかがでしょうか。

 一般的にメールDMなどのダイレクトメールの反響率は0.5~1%の間です。メールDMの場合、受け取る顧客側が慣れていることもあり、さらに反響率は落ちる傾向にあります(0.3~1%)。それでも、200通のメールを送って、1件の問い合わせも確保できなかったとしたら、展示会で集めた名刺は単なる不良資産です。展示会出展コストも、単なる経費となったと考える方が正しいでしょう。

 ご相談を受ける展示会出展企業における課題は、主に以下の2つです。

  • 1.名刺がほとんど集まらない(3日間で100枚未満)。
  • 2.展示会後の商談にうまくつながらない。

 展示会というは、どの企業にとっても労力が必要な大型のイベントです。そのため、展示会出展が目的になっている企業も少なくありません。しかし、展示会は「マーケティング手法の一つである」という事実を理解する必要があります。マーケティングという観点では、それが成果に結び付く必要があります。単に出展しただけでは、経費増になるだけで経営的には何も良いことはありません。

 当然ながら、名刺は集まらなければリストとしての意味はありません。しかし、それに加えて重要なことは、そのリストから案件化しなければ、たくさんの名刺が集まったとしても何の意味もないということです。そこで今回は、展示会をマーケティングととらえ、その後の案件化の流れについて、お話します。

展示会後に何をするかを、展示会前に練り込めているか!

 「展示会後には、そのリストが枯れるまで断続的にセミナーを実施し続けます」。これは展示会マーケティングで成果を生み出し続けている某企業のマーケティング責任者のお話です。この企業では、自社が出展する展示会の年間スケジュールに合わせ、年間のセミナーを同時に企画しています。そして、展示会出展後は、その集めた名刺リストの反響がなくなるまでセミナーを開催します。反響が取れなくなると、また別の展示会に出展し、ハウスリスト作り……というサイクルを回し続けています。

 展示会後の案件化企画と展示会は連動します。

 聞くと当たり前のことですが、フォローフェーズを意識していないで出展展示をしている企業が数多くあります。名刺を交換し、その後はメールDMで商品紹介のアポイントや、資料・試供品の請求を獲得する。もしもそうした出口が明確に決まっているのであれば、展示ブースの設計が、その目的に適合している必要があります。

 中小企業が展示する場合、第1の目的として名刺獲得枚数を最大化することは重要です。また、その集めたリストから高い反響率が引き出せること。それが大切なわけです。実際に私がアドバイスしている企業では、展示会で集めたリストに対してメールDMでセミナーの集客を募ったところ、3.8%の反響率を獲得しました。このように、売上につながる案件を生み出せるリストを作ることが重要です。

 それでは、リストの品質をアップさせるには、どうすれば良いのでしょうか?展示会出展前にしっかりと練り込む必要があります。

  • 1.そもそもどんな人にブースに立ち寄って欲しいのか。
  • 2.誰が展示商品/サービスの顧客なのか。

 この2点を徹底的に議論します。その結果から展示ブースの設計、リーフレットの流れやデザイン、説明員の説明シナリオが重要になります。展示会にはたくさんの無目的な人が来場していることは以前の連載で述べました。その中で誰が顧客なのかを、目視で見極めることは不可能です。そこで、ブース自体が発信するメッセージを鋭く尖らせることで、それを見た来場者が顧客になるのかどうかを判断できるようになります。

顧客が判断できる展示ブースの作り方

 それでは少し具体的にブースの作り方、および運営面についてお話しましょう。私が支援先に実際にアドバイスしている内容となります。これによって実績を上げている企業がいらっしゃいます。

1.ブース全体の色味は暖色系

 理由は単純。目に入りやすいからです。「赤」や「黄色」を主体とした暖色系の色は目立ちます。よく「コーポレートカラーが寒色系なんです」と言われるケースもありますが、コーポレートカラーを出すことに意味はありません。目的は顧客に気付いていただくことですから、その原則は守っていだたいています。

2.メインキャッチを大きく看板に掲載

 これも理由は単純。遠くから見ても分かるからです。暖色系で目立つブースの、1番大きな文字にキャッチコピーがあれば、顧客は瞬時に判断できます。また、無目的来場者に対するニーズを喚起することができます。「企業名を大きく表示したいのですが」という相談を受けますが、それは意味がないと考えています。社名は後から伝えても遅くありません。まずは自社のメッセージへの理解と共感。これが大切です。

4.リーフレット、チラシなどの配布物のコンセプトコントロール

 ブースを彩る重要なアイテムが「配布物」です。ブースの色目やキャッチまでは統一していても、配布される資料がコンセプトを踏襲していないケースがよくあります。展示物に無関係な資料を「せっかくだから」と配布したり、コーポレートカラー全面の会社案内を渡したり……。細部までこだわって、配布物もすべてコンセプトコントロールする必要があります。

4.呼び掛けの言葉もキャッチコピー

 ブース前での声掛けは重要です。しかし、単に叫んでいるだけの呼び込みは意味がありません。活気を感じるかもしれませんが、近寄り難い雰囲気を感じるのも事実です。それよりも相手にとって何か気になる“言葉”を投げかける方が効果的です。3秒程度で伝えられるコンセプトを事前に準備します。それを相手との距離を測りながら投げかけます。大きな声を出さなくても、気になった顧客は確実に振り返ります。

5.名刺と交換するのはノベルティではなく小冊子

 名刺との引き換えに渡すのは、コンセプトに基づいた小冊子です。これもブースと連動し、同一のメッセージを顧客に訴求します。顧客には、短い時間で何度も何度も同じメッセージに触れていただき、自社のコンセプトを潜在意識に刷り込んでいきます。潜在ニーズに気付くのも、こうした単一のメッセージが効果を発揮します。

 ここまで徹底してブースや運営面をコンセプト一色で染め上げることで、顧客は自社にとって有用な情報が得られるブースかを判断します。私の支援先では、「1年前に見たブースを忘れられずに、次回も出展していたら必ず行こうと考えていた」という方がいたというエピソードを伺いました。商談につながる有効なリストを作るためには、曖昧さを許さない徹底したコンセプト展開が重要です。

 最後に小ネタになりますが、お礼メールとメールDMは分けるべきです。お礼メールは、名刺交換の翌日、もしくはイベント終了の翌日には出します。お礼メールには、展示ブースと社員の写真を添付して送ります。商品名や社名は忘れていても、イメージは記憶されています。添付写真を開くことで記憶がフラッシュバックされ、また印象的になります。その後のメールDMなどの反響率を上げるための最後の仕上げが、このお礼メールになります。