クラウドは引き続きIT活用における最注目キーワードの一つだ。スピーディなビジネス展開、事業継続対策、モバイル端末活用など、クラウドの持つ迅速性、拡張性、堅牢性を生かしたIT活用に取り組むことの有効性が叫ばれている。だが、その一方で会計、人事/給与、購買/販売、生産/調達、物流/在庫などといった既存の情報処理システムをクラウドへ移行しようとする動きは当初の予想ほど急速には進んでいない。その要因はどこにあるのだろうか?それを明らかにするためには一旦「クラウド」という枠組みを外し、既存の情報処理システムが抱える課題と「クラウド」との関係を見つめ直す必要がある。

「既存システムのSaaS移行」によるコスト削減への過剰な期待

 冒頭に挙げた会計、人事/給与、購買/販売、生産/調達、物流/在庫といったシステムは一般に基幹系システムと呼ばれる。これらのシステムを統合したERPも基幹系システムの一種だ。まずはこうした基幹系システムのクラウド活用に関するこれまでの経緯を簡単に振り返っておこう。

 本記事の読者の多くはクラウドにSaaS、PaaS、IaaSといった様々な形態が存在することを既にご存知だろう。だが、クラウドが話題になった当初はメール、グループウエア、CRMのSaaSが具体例として頻繁に紹介された。その結果、ユーザー企業の間では「クラウド≒SaaS」という認識が広まることになった。

 特に中堅・中小企業の間では「手元にある会計や販売のシステムをクラウドというものに移せば、コストがかなり削減できるらしい」といった期待が高まった。だが、中堅・中小企業においても基幹系システムを個別カスタマイズし、他システムと連携させているケースは多々ある。そのため、「クラウド≒SaaS」という発想だけでは既存システムの移行は困難となってしまう。

 以下のグラフは年商5~500億円未満の企業に対して「基幹系システムにおけるクラウド活用の障壁」を尋ねた結果である。「データを外に出したくない」という項目よりも、既存システムをSaaSへ移行しようとする際に生じる課題の方が多く挙げられている。「データを外に出す」ことへの抵抗感だけでなく、むしろ「クラウド≒SaaS」という固定観念こそが基幹系システムにおけるクラウド活用の大きな障壁となっているのである。

図1●基幹系システムにおけるクラウド活用の障壁
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 現在は「Amazon Web Services」や「ニフティクラウド」などによるIaaS、「Microsoft Azure」や「Force.com」などといったPaaS、さらに「CloudStack」や「OpenStack」といったクラウド構築基盤なども多く取り上げられるようになり、ITを提供する側だけでなく、大企業の情報システム部門においてもSaaS以外の様々なクラウドが検討対象となってきている。

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