この連載では、市場で話題の製品・サービスとその主要ベンダーを取り上げて、「ユーザー企業は、ベンダーとチャネルをどう見極めるべきか?」という観点から解説している。
今回は米国ゼロックスを株主の一つとする富士ゼロックスを取り上げる。ゼロックスと言えば、かつてはコピーすることを「ゼロックスする」と呼んだほど、普通紙複写機のグローバルなトップペンダーである。だが、あまりにも圧倒的な複写機市場の強さが裏目に出て、いわゆるITでの攻略が目立たなくなった感がある。そんな同社のIT、そして中堅・中小企業市場への取り組みがどこまで進んでいるかをじっくりと分析してみよう。
ドキュメント処理市場の優位をIT提案に活かす
普通紙複写機(PPC=Plane Paper Copier)は、デジタル複合機(MFP=Multifunction Printer)へとグレードアップしたが、印刷する事務機であることは基本的に変わらない。反論があるとは思うが、ビジネス的にみれば「ハードをオフィスに設置する、印刷する、保守サービスとしてチャージを徴収する、サプライを販売する」という形態のままである。最近のデジタル複合機は文書サーバーの機能も備えており、いまや単純な複写機と見なすことはできないという声もある。だが、少なくとも販売する側と使用する企業との契約形態は、旧態依然としている。
これは必ずしも悪いことではない。ビジネスとして見ると、極めて安定的でストック的な収入が約束されるので、変わらぬビジネス形態はむしろ強い優位性を有しているとも言える。
さて、前回のリコージャパンに引き続いて、今回は同系統のベンダーを取り上げることになったわけだが、富士ゼロックスとリコージャパンとの間には、性格と方向性に微妙な違いがあることに気がつく。
もっとも大きな違いは何か。昔から業界を知っている方には常識だが、それは販売方法の違いである。リコージャパンは間接販売によるチャネル販売、富士ゼロックスは直販が中心だった。この違いは販売対象によって生まれた差でもある。富士ゼロックスの販売対象は大企業中心であり、リコージャパンは中堅・中小企業をメインターゲットとしている。
複写機ビジネスは「コピーサポート料」による保守費用が利益の源泉となっている。このため、コピー枚数が多い顧客、いわゆるコピーボリュームの多い顧客が決定的な収益源であり、そうした顧客を多く持っているほど儲かるのである。
当然、大手企業をメインターゲットとする富士ゼロックスに収益面での優位性があるように思える。確かに、かつてはそうだった。しかし富士ゼロックスの複写機市場での圧倒的な優位性は薄れ、ベンダー各社のシェア争いは激化している。IT業界と同じように、複写機市場でもシェア寡占から激戦状態への歴史が繰り返されている。
前置きが長くなったが、そんな圧倒的に優位な時代を経て、富士ゼロックスが現状どのような戦略をとりながら、複写機市場からITやクラウド市場への戦略を取っているのか。それを取材したのが今回の内容だ。