「当社では近い将来、オフィスビルにあるサーバールームを『ネットワークルーム』と呼ぶようになるだろう」。TOTOの名取順情報企画本部長はこう語る。「サーバーが無くなり、ネットワーク機器だけが残るようになる」(同)からだ。

 TOTOは2018年までに、社内サーバーの8割をNTTコミュニケーションズ(コム)のデータセンター(DC)やクラウドへと移行する。2017年には、北九州市の小倉本社にあるサーバールームを大幅に縮小する予定だ。移行は2010年から開始している。

 TOTOだけではない。ヤマハ発動機やキヤノンマーケティングジャパン(MJ)、熊谷組、ディスカウントストア「トライアル」を展開するトライアルカンパニー、電気通信工事大手のミライト・ホールディングスなどが、社内で運用してきた業務系システムを、社外のDCに全面的に移行し始めている(表1)。

表1●業務システムの「オフィスビル脱出」を図る企業や団体の例
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DCで災害リスクを軽減

 日本中でサーバーの大移動、つまりオフィスビル離れが進む理由は二つ。東日本大震災などをきっかけにした災害リスクの認識の高まりと、リスク回避に役立つDC関連技術の進化である。

 キヤノンMJは地震の揺れに対するリスクを再認識した。千葉市幕張の高層ビル内にあった同社の「マシン室」は2011年3月11日、震度5強の揺れに見舞われた。サーバーラックは地震の揺れを吸収する「免震台」に据え付けられていたので、サーバーの破損は免れた。だが、免震台は7台が破損。そのうちの1台は、台を支えるベアリング(軸受け)が外れた。同社ITインフラ部の結城拓主席は、「免震台が壊れた状態で余震に見舞われ、サーバーが破損するのではないかと何度も不安になった」と振り返る。

 熊谷組やトライアルカンパニーは、震災後の「計画停電」を通じて電力供給に危機感を抱いた。サーバールームを設けていた本社ビルには、自家発電設備が無かったからだ。

 ミライト・ホールディングスは、災害に伴う交通網の遮断を懸念した。同社は2010年に東京都江東区の豊洲に本社を移転していた。埋め立て地である豊洲では、震災でビルが大きく揺れただけでなく、地盤の液状化も発生した。同社の古川信次執行役員システム部門長は、「地震によって本社が孤立する恐れがあることを痛感した」と明かす。

震度6に耐えた仙台のDC

図1●オフィスビルとDCの比較
災害対策やセキュリティ対策などの点で、オフィスビルにはDCにはない不安がいくつかある
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 これらの災害リスクは、BCPの観点から様々な装備の強化を進めているDCを活用することで、かなり軽減できる(図1)。

 例えば、東日本大震災の震源に近い仙台市は震度6~7の揺れに見舞われたが、「近くのDCでは、サーバーなどの破損は生じなかった」(日本データセンター協会運営委員を務める建設大手、鹿島建設の市川孝誠iDCプロジェクト室長)。耐震構造を採用していたからだ。さらに最新のDCでは、揺れを吸収する免震装置をビルの基礎に据え付け、直下型地震などに耐えられるようにしている。

 停電にも強い。無停電電源装置(UPS)に加えて、電力を48~72時間程度供給できる自家発電設備を備えている。

 「とう道」と呼ぶ通信ケーブル用の専用地下トンネルに直結しているDCもある。とう道は人が通行できるほど太く、しかも地震の揺れに強い。これに対して、一般のオフィスビルには、電柱や地下に埋められた細いパイプを通じて、通信ケーブルが引き込まれている。そのため、強い揺れによって通信ケーブルが切断する恐れがある。

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