この連載では、市場で話題の製品・サービスとその主要ベンダーを取り上げて、「ユーザー企業は、ベンダーとチャネルをどう見極めるべきか?」という観点から解説している。

 今回は国内の販売チャネルとして最も規模の大きい、そして網羅性の高い複写機の直販体制、販売チャネル体制、サポート体制を有するリコージャパンを取り上げる。全国に配置した直販拠点の販売力やさまざまな販売パートナーとの関係力など、同社が事務機ベンダーとして抜きん出た存在であることは疑いない。

 その一方、昨今ではIT、クラウドでの存在感も増しつつある。そこで、リコージャパンを訪問し、同社のIT、クラウドへの取り組みについて聞いてみた。

リコージャパンの販売力はどうやって構築されたか

 パソコンやPCサーバーが登場する以前の法人向け商材市場の主役といえば、複写機(PPC、MFP)だった。その歴史は古く、湿式複写機(ジアゾ式、いわゆる青焼コピー)から普通紙複写機への変遷にともない、国内での複写機市場はリコーの販売力によって制覇されることになった。

 リコーの販売力の源は、以前は全国各地に配したリコーグループの国内販売会社の存在だった。筆者は今から30年ほど前の原稿を見ながら書いているが、リコーグループの国内販売会社は当時、全国に約50社存在していた。つまり都道府県に1つはあったということだ。

 さらに、広域で販売・卸を行う「母店」と呼ばれるスーパーディーラーがある。そしてその先には、「リコーファミリーチェーン」と呼ばれる二次店があり、その数は3700社と言われていた。まさに他のベンダーを圧倒する販売チャネル網を構築していた。

 複写機は単なる売り切りに留まることなく、導入後の消耗品供給や保守サービスに旨みがあることは周知の事実だ。サポートを理由にユーザー企業へ定期的に訪問する。そこで他の商材も販売するという「複合販売」の手法が形成された。

 当時から戦略的にリコージャパンが心掛けてきたことは次の三つだ。

  1. 販売チャネルの拡大、整備
  2. サービス拠点の整備
  3. 販売チャネルへの教育・支援

 簡単に言えば以上だが、1の販売チャネルは一朝一夕に構築・拡大できるわけではない。2のサービス拠点、3の販売チャネルへの教育・支援がセットされて、しかも地域別のベンダーと販売チャネルの良好な関係が継続的に維持できて、初めて構築される性質のものである。

 販売チャネルの拡大は、さまざまなトラブルを生み出す可能性を秘めている。なかでも厄介なのが、販売チャネルが多すぎて、同じベンダー製品同士で競合してユーザーを取り合うといった混乱だ。

 その事前調整や実際の対応は、実際に経験していないと難しい。リコージャパンはそうした「混乱の時代」を経たことで、販売チャネルのオペレーションでは他のベンダーにはないノウハウを有するに至った。

 2のサービス拠点の整備、3の販売チャネルへの教育・支援などは、今では当たり前だが、当時のチャネル支援策としては、極めて負担の大きな施策であった。特に販売チャネルとユーザーの関係を継続させるためのサポート力は必須である。

 販売店とユーザー企業が複写機サポートを通じて長期間にわたって関係性を保つことは、今でいう広い意味での「ストックビジネス」の基本形と言えるだろう。当時は複写機やファクシミリなどの事務機が主体で、ワードプロセッサが出始めのころであり、ITの商材は限定されていた。「OA」時代のリコーの存在は巨大であった。

 一方、ITの立ち上がり時期のリコージャパンの戦略は、オフィス向け小型コンピュータ、いわゆるオフコン、オフィスプロセッサの中堅・中小企業への業務システムの展開だ。当時はリコー電子機器販売などの系列の子会社3社の直販で全国をカバーしていた。

 その後、紆余曲折を経て、現状はリコージャパンとして、国内のすべてのIT、事務機の販売チャネルは一本化している。販売チャネルは基本的に当時の状態をほぼ継続しており、依然として強い販売チャネルであることは変わらない。

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