端末アプリの使用性を高めるには、システム全体のアーキテクチャーを見直すことで操作中のサーバーとの通信を極力減らし、UI(ユーザーインタフェース)の応答速度を上げることが重要である。それを突き詰めると、アプリのオフライン化になる。そんな挑戦を行った三つの事例を紹介する。
サンコー
サーバーとの通信減らしUIの応答速く
「電子化すると作業が滞る。今まで通り、紙に書いたほうが速い」──。
2013年4月に新潟工場で生産実績報告アプリを導入した、ガス栓メーカーのサンコー(図1)。そのアプリ開発は、利用部門である生産現場から聞こえるこの言葉との戦いだったという。
話は2011年にさかのぼる。当時、サンコーの工場では、生産実績報告を所定の用紙に手書きしていた。生産実績報告とは、金属の切削や洗浄・梱包といった工程ごとに、担当した作業者が、製品名、製造量、良品数/不良数などを書くものだ。生産実績は生産管理システムに登録する必要があり、事務担当者が日々、紙の報告書を見ながらキーボードを叩いて手入力していた。
新潟工場 副工場長の細井雅明氏(取締役)はこの状態に「合理化しなければならない」と強い問題意識を感じていた。そこで、ITベンダーの芝通アドバンスに依頼し、PC端末を使う生産実績報告システムを開発。5台のPCを生産現場に配置して、生産現場の主任クラスが手の空いたときに実績を入力する仕組みを整えた。
しかしこのシステムはほとんど使われなかった。理由は冒頭の言葉のように、PCのシステムの使用性が高いとはいえず、それを使って生産実績のデータを入力すると現場作業が滞るからだった。システムの利用を生産現場に無理強いできなかったという。
細井氏は諦めなかった。2012年4月に今度は、タブレット端末を約40台導入し作業者一人ひとりに生産実績報告を入力させる、というプロジェクトを立ち上げた。
最大の懸案事項は、タブレット端末で「紙に匹敵する高い使用性を実現すること」である。サンコーからシステム開発を依頼された芝通アドバンスの赤塚 剛氏(取締役 ゼネラルマネージャー)は、使用性を最大限に高めるため、システム全体のアーキテクチャーに着目。Webシステムにするのではなく、サーバーと連携動作する端末アプリの開発を提案し、サンコーはこれを受け入れた。