生体認証の中で、静脈認証の存在感が増している。日本国内では2011年に認証装置の出荷台数ベースで指紋認証を抜き、今後も年間10%近くのペースで出荷が伸びる見込みだ。静脈認証技術を提供する各社は、使い勝手の向上や用途の拡充でさらなる需要の発掘を狙う。日本で洗練された技術を海外に売り込もうとする動きも活発だ。

 手や指の静脈を基に個人を特定する静脈認証技術の導入が進んでいる。富士経済のセキュリティ関連市場調査によると、静脈認証装置の出荷台数は2015年に16万台に上る見込み。国内の生体認証技術として、指紋認証を抜きトップシェアを獲得した2011年以降も、年間10%近くの伸びが続く見通しだ。用途も多様化している。PCや業務アプリを使用する際のアカウント認証や入退室管理、ATMでの認証から、図書館や病院における本人確認で利用するケースも出てきている(図1)。

図1●静脈認証の利用シーン
図1●静脈認証の利用シーン
PCのアカウント認証や入退室管理、ATM、図書館利用者の認証まで利用が広がっている

 生体認証の各種技術を比較すると、現時点で世界的には、指紋認証が優勢だ。富士通の若林晃パームセキュアビジネス推進部部長は、「海外の調査会社によると、2017年度時点で静脈認証関連製品の市場規模は生体認証の中で第5位だ」と話す。とはいえ、「年間30%超の割合で市場規模は拡大する」(若林部長)と、グローバル市場においてもハイペースで導入が進むと見る。

 本人認証に静脈を使うメリットはいくつかある。まず体内にある情報なので偽造が難しく、安全性が高い。さらに、生体情報を登録できない人が少ない。例えば指紋の場合、仕事などで薄くなってしまって認証に使えない人が一定数存在する。ただし、静脈は外部の影響を受けることはほとんどない。日立製作所は自社製品に関して、静脈情報を登録できない人は0.03%未満だと公表している。

 認証の精度も高い。本人が本人と認識されない「本人拒否率」と他人が本人と認識されてしまう「他人受入率」は、どちらも指紋などに比べ、総じて低い。

 国内で利用されている静脈認証技術は主に5つだ()。ソニーから独立したモフィリアと日立グループは指、富士通グループは手のひらを、日本と中国で韓国テクスフィアの技術の独占的製造・販売権を持つシンクロは手の甲の静脈を、認証情報として使用する。NECグループは指紋と指静脈のハイブリッドだ。

表●国内で利用されている主な静脈認証技術
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 富士通の若林部長は、「認証精度などに大きな違いはなくなりつつある」と明かす。カタログスペックだけでは差がつきにくい現状を踏まえ、各社は静脈認証の新たな用途や利用シーンを独自に発掘し、市場を広げる取り組みにしのぎを削っている。

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