クラウドを構築するためのソフトウエア群が「クラウドOS」の名の下、メーカーやクラウド事業者の垣根を越えて共通化し始めている。クラウドOSが共通化することで、ユーザーは異なる事業者のクラウド上で同じ運用管理手法を適用でき、クラウド事業者による「ロックイン(囲い込み)」を回避できるようになる。主要4陣営の実力を検証する。

 米国の大手ソフトベンダーが相次いで「クラウドOS」の提供計画を発表している。米ヒューレット・パッカード(HP)が2013年6月に「HP Cloud OS」という構想を発表したほか、米マイクロソフト(MS)も2013年4月に「Windows Azure」を中心とするクラウドOSの提供計画を明らかにした。同様の構想は、米IBMや米ヴイエムウェア、米シトリックス・システムズなども発表済みだ。

 クラウドOSは、サーバーやストレージ、ネットワークなどのITインフラ資源(リソース)を抽象化して、IaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)を実現するとともに、外部のプログラムに対して「管理用API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)」を提供する(図1)。

図1●クラウドOSの概念と、従来型OSとの比較
クラウドOSは、データセンター内のハードウエア全体を抽象化し、IaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)として提供する基本ソフトウエア(OS)である。アプリケーション(運用管理ツール)に対してAPIを提供し、ハードウエアを抽象化して利用できるようにするという点が、従来型OSと共通する
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 ユーザー企業はIaaSを選択する際、それがどのクラウドOSを用いて構築されているのかを、押さえておく必要がある。どのクラウドOSに対応してシステム運用の仕組みを作っていくかが、その後のクラウド活用シナリオを大きく左右するからだ。

 例えば、異なるクラウド事業者であっても、クラウドOSが同じなら、管理用APIの仕様も同じなので、同一の運用管理ツールを利用できる。異なるクラウド事業者のクラウドをまたいでシステムを一元管理したり、移行したりするのが容易になる。

 多くのクラウド事業者が使い続けるクラウドOSに基づいたサービスを選択しておけば、クラウド事業者による「ロックイン(囲い込み)」を回避することもできる。

ITインフラを抽象化

 クラウドOSは、従来は「IaaS構築ソフト」などとも呼ばれた。PCやサーバーに用いる従来型OSと仕組みや役割が似ていることから、最近では「クラウドOS」という呼び方が一般的になってきた。ハードウエアを抽象化し、APIを提供するという点が、従来のOSと似ている。「プラグイン」の追加によって、より多くのハードを管理できるようになる点も、従来型OSと同様だ。

 クラウドOSが備えるAPIは、システム管理用のAPIであり、主に運用管理ツールが利用する。ユーザーは管理用APIを呼び出すスクリプトなどを利用することで、仮想マシンの起動や終了などの操作を自動化できる。

 日経コンピュータ2013年4月18日号の特集「さあ、運用を変えよう」で紹介した、開発と運用の連携をプログラムによって自動化する「DevOps」を実現するうえでも、クラウドOSは不可欠だ。

 クラウドOSはこれまで、クラウド事業者や、プライベートクラウドのソリューションを販売するメーカーが個別に開発していた。今ではメーカーやクラウド事業者をまたいだ、クラウドOSの共通化が進んでいる。

 主要なクラウドOSは、HPやIBM、米レッドハットが推すオープンソースソフトウエア(OSS)の「OpenStack」、シトリックスが中心となって開発しているOSSの「CloudStack」、ヴイエムウェアの「VMware vCloud」、MSの「Windows Azure」を中心とする技術/サービス群、の4陣営である。

 以下では、クラウドの活用方針に大きな影響を与えるクラウドOSの技術的な詳細や、強み/弱みを、詳しく見ていこう。

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