セールスフォース・ドットコム社長である宇陀栄次氏に、クラウドの現状と今後について聞いた。同社の場合、いまでは営業支援だけでなく、マーケティング分野など顧客のニーズに応じて新機能を次々に追加し、守備範囲が大きく広がってきている。一方で、度重なるIT投資に悩んでいるユーザー企業は多く、本来のIT投資の目的を見失っている例もあるという。「クラウドという新しい手段を得ることで、ユーザー企業はIT化の目的を再認識できるのでは」と話す。


クラウドに対する期待が高まっている。

写真●セールスフォース・ドットコム社長の宇陀栄次氏
写真●セールスフォース・ドットコム社長の宇陀栄次氏

 IT投資の増大に困っているユーザー企業が多いようだ。顧客のトップに会うと、「IT投資を何とか抑制できないか」と言われることもある。コンプライアンスの面などもあり、このままIT投資が増えてしまうと「IT倒産」になってしまうのでは、という心配する人もいるくらいだ。

 本来のIT活用は業務効率を高めるためにある。ならばIT市場はもっと伸びてもいい。それが、IT投資が経営にマイナスになるようでは本末転倒だろう。IT投資に対する企業の見方が間違った方向に行きかねない。クラウドという新しい手段を得ることで、ユーザー企業はIT投資の目的を再認識できるのではないか。

IT市場を変えるきっかけになるのか。

 自動車業界や家電業界などは今、変わろうと必死に努力している。IT業界も開発の技術や生産性など、まだ改善すべき部分が多いはずだ。もちろんクラウドは、そうした改善の1つの手段に過ぎないかもしれないが、今後に大いに期待できる分野である。

 バージョンアップの作業を考えても、これまでの情報システムの形態では大変な手間と労力だった。ハードやソフトの調整が難しいこともあった。問題が発生したらどうすべきか、とバージョンアップを迷惑に感じるユーザー企業もいただろう。機能の強化は喜ばしいはずなのに、なぜか後ろ向きになってしまう。

 しかしクラウドでのバージョンアップは非常に簡単で、すぐに機能を強化できる。しかも頻繁にだ。ユーザー企業に迷惑をかける心配はない。

クラウドはどこまでの業務に対応できるのか。

 そうした質問が最近多い。クラウドへの関心が集まっているからだろう。

 企業によってはコアな部分の業務以外はクラウドになるかもしれない。コア以外を全部、クラウドに乗せることができれば、大幅にコストが下がるだけでなく、企業のガバナンスが上がりリスクを減らせるといったメリットも出てくるはずだ。業務のサーバーの9割はクラウドに移行できるという意見もある。

 すべての業務をクラウドで処理できるわけではないが、クラウドの導入を考えることで現在の情報システムを見直すきっかけになり、コア部分に集中投資することもできるようになるだろう。

 当社のクラウドで言えば、いわゆるフロントエンド全般まで対応できるようになってきた。たとえば、これまでは営業とマーケティングは別々の業務と考えられてきたが、いまや同じ範囲の業務と考えられている。CRMでもコールセンターやWebとの連携を重視する時代である。

 このため当社の製品の機能も営業支援からマーケティング分野などにも広がっている。営業などの現場が「見える」ようになったことで、効果が上がった企業もある。パートナーなど販売チャネルの情報やソーシャルメディアの情報も取り込めるようにしてほしい、という要望まで出てきている。そうした声に今後とも応えていき、クラウドの守備範囲を拡大していきたい。