ベーカリー店「アンデルセン」などを展開するアンデルセングループは、これまで5年を投じてシステム開発・運用体制の改革を進めてきた。グループ共通の材料表(BOM)などを備えた基幹系システムを整備したのを機に、システム部員を利用部門へ異動。Hadoopを使った原価計算システムなど先進的な業務システムを、利用部門主導で開発している。

 アンデルセン・パン生活文化研究所を持ち株会社とするアンデルセングループは、流通業としての顔と製造業としての顔を併せ持つ企業グループだ(図1)。直営ベーカリーを運営するアンデルセン、ベーカリー店をフランチャイズチェーン(FC)展開するマーメイドベーカリーパートナーズ、スーパーマーケット向けなどのパンを製造するタカキベーカリーなどで構成されている。

図1●アンデルセングループの概要
ベーカリー店チェーンを国内外に展開するほか、スーパーマーケット、コンビニエンスストア向けのパン製造も行う
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 アンデルセングループは、ITの世界でも有名だ。ここ数年、先進的な業務システムを次々と構築してきたからだ。2012年4月には、OSS(オープンソース・ソフトウエア)の分散バッチ処理ソフト「Hadoop」を使ってパン製造の原価を計算するシステムを稼働させた。2011年11月には、POS(販売時点情報管理)データを基にパンの販売個数を予測し、予測に基づいてベーカリー店内でその日に作るパンの数を決める販売・製造計画システムを稼働している。

 毎年のように新しい業務システムを開発しているのだから、システム部門の規模が拡大していてもおかしくない。ところが、同社のシステム部門の人数は一貫して減少している。10年前には30人以上いた情報システム部員が、今では5人になった。

 「元々いたシステム部員の多くは、グループ各社の利用部門に異動させた。そして今は彼らが、利用部門の中で業務システムを開発している」。アンデルセングループのシステム部門のトップ、堀尾紀昭アンデルセンサービス執行役員システムサポート部部長はこう語る。「現場の業務を理解していなければ、現場が必要とするシステムは開発できない」(同)という信念があるからだ。

鍵となった材料表の整備

 元システム部員による利用部門主導のシステム開発が可能になった背景には、二つの仕組みを整備したことがある。

 一つめは、グループ共通の基幹系システムを整備したことだ。アンデルセングループではかつて、基幹系システムがグループ会社ごとにバラバラだった。システム部門もグループ各社に分散していた。システム部門は既存の基幹系システムを維持するのに精一杯で、新しい業務システムを開発する余力が無かった。

 アンデルセングループは2002年に持ち株会社制に移行した際に、システム開発体制の一新を決断。システム部門をアンデルセンサービスに一元化し、5年の時間をかけてグループ共通の新しい基幹系システムを構築した(図2)。

図2●アンデルセングループのシステムの全体像
図2●アンデルセングループのシステムの全体像
2007年までに基幹系システムの刷新を完了。その後は情報システム部門ではなく、利用部門が業務アプリケーションを開発する体制に改めた

 その際に特に重視したのは、パンの原材料や関連部材を登録した材料表(BOM)の整備だ。アンデルセングループの各社はパンを製造し販売しているのだが、その製造・販売プロセスは会社ごとに大きく異なる。

 例えば、直営店「アンデルセン」は各店舗の中にパン工房があり、粉からパンを焼いて販売している。一方、FC店の「リトルマーメイド」では、冷凍パンを店舗で焼いて販売している。タカキベーカリーは、スーパーやコンビニ向けのパンを製造しているほか、リトルマーメイドなどの店舗で使用する冷凍パンも製造している。

 グループ共通BOMを整備することで、パン原材料の受発注管理や、パンの製造管理がグループを通じて可能になった。さらに、パン単品での原価管理もできるようになった。グループ各社は、グループ共通の基幹系システムにあるデータを利用して、自社の業務に必要なシステムを開発できるようになり、利用部門によるシステム開発の基盤が整った。

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