以下に挙げる五つの運用業務は今後、クラウドに委ねたり、開発者に任せたりできる。情報システム部門は、運用担当者の業務を変えたり、開発者が運用も担える仕組みを作ったりすることで、ビジネスの変化に素早く対応する体制に、自らを変革できる。

無くせる運用業務─1
ITインフラ運用

 「パブリッククラウドを使えば、ITインフラの運用業務は、ほぼ不要になる」。東急ハンズの長谷川執行役員はこう断言する。

 従来もユーザー企業はベンダーにITインフラの運用をアウトソーシングすれば、社内からITインフラの運用業務を無くすことはできた。しかしこの場合、ユーザー企業の運用担当者がベンダーに移籍するケースが多かった。

 クラウドでは、運用担当者の移籍は発生しない(図5)。クラウドの中では、ITインフラの運用管理はソフトウエアによって自動化されているからだ。例えば、米マイクロソフトのクラウドサービスを提供するデータセンター(DC)では、1人のシステム管理者が5000台の物理サーバーの運用を担当しているという。

図5●アウトソーシングとクラウド利用の違い
図5●アウトソーシングとクラウド利用の違い
従来のアウトソーシングでは、ベンダー側も人手で運用をしていたため、その要員としてユーザー企業の情報システム部員がアウトソーシングベンダーに移籍するケースもあった。運用を自動化しているクラウドではそのような要員の移動は発生しない

 ユーザー企業から無くせる運用業務は、利用するクラウドの種類によって異なる。アプリケーションをサービスとして利用するSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)であれば、ITインフラの運用全般に加えて、OS/ミドルウエア、アプリケーションの運用も無くせる。

サイジングや構成管理が不要に

 アプリケーション実行環境を提供するPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)や、ITインフラを提供するIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)では、システムに必要なサーバーやストレージの規模を決めるサイジングが不要になる。

 これまで、「熟練の運用担当者でなければ正しいサイジングはできなかった」(東急ハンズの長谷川執行役員)が、時間単位の従量課金制で利用できるPaaSやIaaSでは、ITインフラのリソース(資源)が不足すれば、後からすぐにリソースを追加できる。事前の細かいサイジングは不要だ。

 「Google App Engine」のようなPaaSではさらに、システムの負荷が増減した際にサーバー台数などを調整する構成管理が不要になる。PaaSは、アプリケーションの挙動に応じてシステムが自律的にITインフラのリソースを増減する、運用の「自律化」の機能を備えているからだ。

 こうしたPaaSを実現するには、Amazon Web Services(AWS)のようなITインフラを操作できる「管理用API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)」を備えたIaaSに対して、「Cloud Foundry」などの「コントローラー」と呼ばれるソフトを導入する。

 Cloud Foundryは、アプリケーションの挙動を監視し、あらかじめ設定した「運用パターン」に従って、ITインフラをコントロールする(図6)。例えば、プロセッサの使用率などが閾値を超えた場合に、仮想マシンの台数を増やすといった具合だ。コントローラーは、IaaSが備える管理用APIを呼び出すことで、サーバーやストレージ、ネットワークを、人手を介さずに操作する。

図6●ITインフラの運用を自律化する仕組み
IaaSの「オーケストレーター」とPaaSの「コントローラー」によって、アプリケーションの挙動に応じてシステムが自動的にITインフラのリソース(資源)を増減する「自律化」が実現する
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 現在、管理用APIを備えたIaaSを構築できるソフトは、「OpenStack」のようなOSSとして登場している。プライベートクラウドでも、IaaSをOpenStackなどで構築し、Cloud Foundryなどを導入すれば、ITインフラ運用の自律化が実現する。

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