ここ1~2年、システム開発や運用アウトソーシング案件に関して、「ベンダーが作った契約書のひな型をレビューして欲しい」というIT部門からの依頼を数多く受けるようになった。契約交渉に、より真剣に取り組むIT部門が増えている。換言すれば、IT部門にベンダーを主体的に管理したい志向が強まっている。
これまで多くのIT部門が、長期的な関係を前提に、ベンダーと暗黙の信頼関係を築いてきた。悪く言えば、ベンダーへの「丸投げ依存」体質になりがちなのだが、それでも契約上の取り決めを厳密に精査しなくても、かなり柔軟に「両社合意の上」での融通が効いた。
しかしその一方で、経済環境が厳しくなり、「ベンダーにお金を払い過ぎではないか?」という経営側からの声が強まってきた。経営層からは、IT部門のやっていることはよく見えない。にもかかわらず、ベンダーに支払う金額は高い。「IT部門はベンダーのエージェントなのか?企業側の窓口ではないのか?」といった経営側からの不満も出るほどだ。
結果、IT部門とベンダー間の“暗黙の了解”は、もはや通らなくなっている。ブラックボックス的だったITに対して、「コストの透明性」が求められようになり、その結果、ベンダーとの関係を見直そうという動きが強まってきた。契約交渉においても、RFPを作成して競争見積もりでベンダーを選定する企業が増えてきた。そうなると、契約交渉もきちんと行わなければならない。これが、最近になって契約交渉がクローズアップされてきた理由だ。
VMOで経験やナレッジを蓄積する
残念ながら、日本の企業のIT部門は、これまでベンダーが手厚くフォローしてきたため、長い時間をかけて“骨抜き”にされている。経験値もベンダーの方が高いため、契約交渉は必然的にユーザー企業が不利になり、高い買い物をすることになりかねない。
さらに、ほとんどのケースで、契約書のひな型をベンダーが作成しているため、ひな型の中身は、ベンダーに有利な内容になっている。作成する側(ベンダー)が、自社のリスクを最小化しようとするからだ。契約交渉では、これを「イーブン」にまでもって行く必要があるが、簡単なことではない。
より俯瞰的に見れば、ベンダーのパフォーマンスを、適正な価格・最小のリスク・協調的関係をもって引き出す「専門機能」の必要性がIT部門に高まっているということだ。その際に望ましいのは、CIO直属の組織として、VMO(ベンダーマネジメントオフィス)を設置することだ。
VMOの役割は3つある。1つは、見積もりの精査やベンダー選定、契約交渉などを行う「契約管理」。2つめは、ベンダーのパフォーマンス(SLAや品質など)を監視する「パフォーマンス管理」。3つめは、ベンダーと良い関係を築くための「関係管理(リレーションマネジメント)」である。
VMOは、ユーザー企業として、ベンダーマネジメントにかかわる経験やナレッジを蓄積して形式知化できることが大きなメリットだ。日本でVMOを設置しているのは、まだ2割程度だが、今後はより重要になる(図)。
VMO以外にも、短期的な戦術としては、ユーザー企業の立場でベンダーと交渉してくれるコンサルタントを使う、ベンダーの内部事情を熟知した人をベンダーからヘッドハントする、といった手もある。ただし、これらのベンダーマネジメント・スキルは発注側であるIT部門が時間をかけて内製化すべきだ。