「ITを活用してこれまで多くのコスト削減に貢献してきたが、その分をIT予算に回してくれるわけはなく、毎年一律何%という形で経営トップから削減要請がある」(大手製造業)──。リーマン・ショック以降、コスト削減の圧力は高まるばかり。これまで削減に貢献してきたIT部門も例外ではない。日本企業は欧米企業に比べて売上高に対するITコストの比率は低いとされるが、それでも削減を迫られる。

 こうした中、全社を挙げて抜本的にITインフラを見直し、大幅なコスト削減を狙う企業が出てきた。TOTOは2009年7月に打ち出した長期経営計画「TOTO Vプラン 2017」に基づき、事業部ごとに構築していたITインフラの共通化や共有化を推進する方針を決定。HOYAも2011年1月に全社のIT整備プロジェクト「HOYA IT Optimization Project」を立ち上げ、やはり事業部ごとに独立していたITインフラの基盤を統一していく作業を進める。

 両社に共通するのは、クラウドサービスへの全面移行によるサーバーの統廃合。TOTOは2018年までに情報システムの80%以上をクラウド側に移行する計画で、約16億円のコスト抑制を見込む。HOYAも一部を除いてサーバーをクラウド側に移行または廃棄し、2016年までに年間ITコスト30%以上の削減を目指す。HOYAの2012年3月期連結売上高は約3600億円で、ITコストの売上高比率は2%強。同社は削減額を開示していないが、「日経コミュニケーション」の推定では数十億円規模となりそうだ。

理想は全社を挙げた取り組みだが…

 コスト削減に向けた最良の策は、TOTOやHOYAのような抜本的な見直し。全社のITコストの内訳を精査し、無駄を徹底的に省いていく。「本社はしっかり管理できているが、海外拠点まで含めて厳密に把握できている企業は少ない。一時しのぎの削減ではなく、全社的な戦略を持つことが重要。運用の固定費を減らして新規開発の戦略的な投資に振り向けていく」(アクセンチュア IT戦略グループの長部亨シニア・プリンシパル)。

 ただ全体最適はトップダウンの取り組みが不可欠で、難しいのも事実。TOTOも「事業部という縦軸の力が強く、長期経営計画でわざわざ明示しなければならないほど(共通化や共有化という)横串を差し切れない文化があった」(情報企画部の名取順部長)。HOYAも全社プロジェクトとはいえ、「これまでアンタッチャブルな世界だっただけに、あらゆる方面から抵抗があった。コストメリットを示しながら世界各拠点を説得して回るのに苦労した」(コーポレート企画室グループ情報システム統括責任者の近安理夫CIO)という。言うは易く行うは難し。そう簡単に全社を動かせないというのが、多くのIT部門の本音だろう。

取り組み状況や考え方はバラバラ

 コスト削減の取り組み状況も企業によってバラバラ(表1)。「日経コミュニケーション」読者モニターへのアンケート結果では、「コスト削減策はいろいろある」(卸・小売業)という一方で、「効果の大きいものほどやり尽くした感がある」(輸送用機器メーカー)といった声もあり、温度差がある。アクセンチュアでもユーザー企業へのコンサルティングで「108の煩悩施策」として108種類の項目にわたってコスト削減診断を実施するが、「地道に取り組んでいる企業の場合は数%程度の削減効果しかない」(長部シニア・プリンシパル)とする。

表1●ICT関連のコスト削減について読者モニターから寄せられた意見*1
表1●ICT関連のコスト削減について読者モニターから寄せられた意見*1

 考え方についても、「多少割り切ってグレードを落としたネットワークの検討がコスト削減のセオリー」(卸・小売業)とする企業があれば、「ネットワークはライフライン。停止は危機的な状況をもたらすので万全な投資が必要」(食料品メーカー)といった全く逆の意見もある。つまり、企業の置かれた状況で考え方がまるっきり異なるのだ。

 共通して言えるのは、とにかくIT資産を棚卸しして、コストの内訳を「見える化」すること。実はこれが難しく、TOTOやHOYAも全社のIT資産の棚卸しに約1年間かけている。基本的には「契約書をベースに内訳を調べていくしかない。見積もりが『一式』となっていて分からないことがあるが、詳しく調べたら高い部分があって安くできたケースもある。アプリの利用状況も調べ、使用頻度が少なく効果が低いものは捨てる勇気も必要。無駄にライセンス費用や保守費用を支払っている可能性がある」(ガートナー ジャパン リサーチ部門の片山博之リサーチディレクター)。こうした見える化の取り組みを継続していくことがコスト削減の近道になる。

この先は日経クロステック Active会員の登録が必要です

日経クロステック Activeは、IT/製造/建設各分野にかかわる企業向け製品・サービスについて、選択や導入を支援する情報サイトです。製品・サービス情報、導入事例などのコンテンツを多数掲載しています。初めてご覧になる際には、会員登録(無料)をお願いいたします。